ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆005

「それじゃまたね。楽しんでいってね」
遥子と麻理子に笑顔で手を振りながら眞由美は若林の太い腕に手を廻し二人は去っていった。


麻理子は名刺に目を移す。
黒地にE.YAZAWAの赤いロゴと横顔のシルエットが彩られた面の裏に《Bar Open Your Heart owner 朝倉眞由美》と書いてある。


「眞由美さんは川崎でお店をやってるの」と遥子。
「そうなんだ」
「カッコいいお店なんだよ。今度連れていってあげる」
「うん」


と、その時


「ねえねえ、お姉さん」
遥子の横の席に座っていた男が話しかけてきた。


「そちらのお嬢さん今日が初参戦なの?」
スーツ姿ではないがリーゼントでキメた『いかにも矢沢ファンでござい!』とゆう風貌の男の声掛けに麻理子はビクッとした。


「そうなんですよ。ヨロシクお願いしますね」と遥子は笑顔で返す。
「二人とも若いよねぇ」
「それに可愛いしなぁ」と男の連れも会話に参加してきた。
「ありがとうございます」
遥子の笑顔が更に明るくなる。


男達は4人連れでアラフォー世代の様だ。


「こちらのお姉さんはいつからのファン?」
「私は『Z』からです」
「おぉ~~!あれは良かったよねぇ!!」
「はい」
「まぁ永ちゃんはいつでもサイコーだけどね」
「そうですよね」と笑う遥子。

麻理子は意外に思っていた。
昔の遥子ならナンパ等で見知らぬ男が話し掛けてきても適当に受け答えしながら、まともに相手にしない事が殆どだったのに今は楽しそうに初対面の男達と談笑している。


すると突然、奥の席の2人が立ち上がり


「それじゃこちらの若くて可愛いお姉さんお二人、特に初参戦のこのお嬢さんを歓迎して永ちゃんコール行きます!」
「イエーーーイ!」
「おぉーーーーーっ!」


麻理子は男の、麻理子にすれば全く以って意味不明な突然の宣言と周りの拍手や歓声に絶句した。
だが遥子は楽しそうに笑っている。


「行くぜーーい!永ちゃん!!」
「永ちゃん!永ちゃん!永ちゃん!永ちゃん!永ちゃん!永ちゃん!永ちゃん!」


麻理子達の周辺で勝手に盛り上がる矢沢ファン達。
遥子もコールこそしてないが手拍子をしながら楽しげにノッている。


戸惑いながらも麻理子はさっきまで感じていた場違いな雰囲気を不思議な事に今は感じないでいた。
先程出逢った敏広や眞由美達。そして今、周りにいる人達は何故だか自分を歓迎してくれている。
初対面で、しかもファンではない自分をこんなにも気さくに受け入れてくれる『矢沢ファン』達。


麻理子は遥子が場外で言っていた言葉を思い出した。


《矢沢ファンってあんな風にギンギンの人達も話してみたら面白くていい人ばっかりなんだよ》


始めは半信半疑であったが今は何だか解る様な気もしてきた。
男の永ちゃんコールが一区切りした所で一斉に拍手が巻き起こる。


「ありがとうございまーす」

お礼を言う遥子に更に拍手が向けられる。


「あ、そうだ!肝心な物を忘れてたわ!」
遥子はバッグから黒い袋を取り出し、その中から綺麗に畳んである二つのタオルを取り出した。
「今日は私のを貸してあげる」
遥子は一つのタオルを広げて麻理子の肩に掛けた。


「お!レインボーじゃん!いいねぇ~」

男達が口を揃えて述べる。
「このデザイン素敵ですよね」と遥子。
「お姉さんの今日のタオルは?」
「私は今日はこれです」
遥子は白地に黒ロゴのタオルを広げた。
「王道だな!」
「私も幾つか買いましたけど、これが一番のお気に入りなんです」
「若いのに渋いねぇ~!」


麻理子はまた困惑した。
何故にコンサートにこんな大きなタオルが必要なのか?
そういえばさっきの3人もタオルを肩にかけていたし見渡せば会場にいる殆どの人がそして横の席にいる男達も当然の様にタオルを持っている。
だがその答えを知るのにそれほど時間は必要では無かった。


因みにそこの男達の持ってるタオルは黒地赤ロゴ、赤地の羽根ロゴ、黄色地フデロゴ、黒地ワシロゴと言った具合である。


「それじゃ今日は盛り上がって行こう!」
「はい!」
「本日は、ようこそいらっしゃいました」


遥子の返事が合図になったかの様に場内アナウンスが響き渡る。
一通りの注意事項の告知が終わると軽快なシャッフル・ビートが流れ始めオーディエンスがそれに合わせて永ちゃんコールを歌い始める。
そして会場は一瞬にして暗転に包まれ、地鳴りの様な歓声が武道館を包み込んだ。

つづく


コメント

  1. 大阪の永ちゃん狂い より:

    おぉぉぉぉ~~とうとう始まる!
    武道館の興奮が蘇る~!!!
    永ちゃんコ-ルがやりたい・・・

  2. AKIRA より:

    大阪の永ちゃん狂いさん♪^^
    毎度です
    >とうとう始まる!
    うぅ、すみません
    次回は多分、期待を裏切る内容であります
    理由があっての事なんでどうかご理解願います

  3. 大阪の永ちゃん狂い より:

    読者の期待を裏切りつつ進んで行くのが小説でんがな(笑)
    なにわともあれ楽しみです

  4. AKIRA より:

    大阪の永ちゃん狂いさん♪^^
    毎度有難いお言葉ホントに感謝です
    このコメを書き込んだ後に続きをUPしますんで
    重ねてヨロシクお願いします
    さて吉と出るか凶と出るか。。。

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