「あっ、もうこんな時間!」
5時30分を指した時計を見た千晶が声を上げる。
「パーティーは7時よ」
「うん。でも6時にちょっと友達に呼ばれてるんだ」
「あら、忙しいのねぇ」
「叔母さん、六郷土手って自転車と電車どっちで行ったらいいかな?」
「六郷土手?」
大田区側の多摩川河川敷にある六郷土手は里香達のマンションからは微妙な距離であった。
里香はパーティーの事も考えて電車を薦めた。
「でも六郷土手で何するの?」
「判らない」
「判らない?」
「うん。話があるからその時間に来てって言われてるだけだから」
「もしかして恋愛相談?」
「あぁ~そうかも!」
二人は笑った。
すべての洗濯物を畳み終えた所で千晶は一度、自宅に戻って先に外出すると告げた。
「会場まで迷わず来れる?」と里香。
「うん大丈夫」
「気をつけてね」
「ありがと。じゃあまた後で」
5:55PM
京急線六郷土手駅から千晶は徒歩で約束の場所へ向った。
衣替えの時期とはいえオーバーニーソックスを着けカーディガンを羽織っても少し肌寒い。
薄暗くなった河川敷を土手の上から見渡しても人の影は何処にも見当たらなかった。
千晶は携帯を取り出して友達の葵に電話を掛けようと思ったら調度良いタイミングで、その葵から掛かってきた。
「もしもし、葵?」
「千晶、今どこ?」何だか声が暗い。
「着いたよ。土手の上」
「野球場にまで来て」
「野球場?」
電話が切れる。
「何だろ・・・」
釈然としないながらも千晶は歩みを進めた。
野球場の上にまで着くと一人の人影がグランドの手前に見えた。
「葵~っ!」
大きな声で呼んだが人影は無反応。
人違いかなと思いつつも千晶は土手を降りて影に近づいていった。
だがその人影は制服姿の葵であった。
「葵どうしたのよ?」
少し息切れをしながら葵の前にまで来る千晶。
だが葵はここでも無反応。
「葵?」
「千晶・・・・・・・・・・ごめんね!!」
葵はしゃがみ込んで泣き出してしまった。
「ちょ・・・・どうしたの!?」
葵の慟哭に驚きながらも千晶は背後に人の気配を感じてハッと振り返る。
4人組が不適な笑みを浮べていた。
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