「私も今日はビール飲もうかな」
「あら、珍しいじゃない」
有楽町駅近くのビアホールにて麻理子の意外な言葉に少し驚く遥子。
「だって永ちゃんも美味しいビール飲んで帰ってって言ってたし」
年明けの頃までは矢沢さんと呼んでいたのに、いつの間にか麻理子も完全に永ちゃんに馴染んでいた。
「カンパーイ!」
互いにジョッキを合わせると麻理子は半分位まで一気に飲んでしまった。
「おぉ~!麻理子ちゃん、いい飲みっぷりだねぇ!」と敏広。
「ちょっと大丈夫?」と遥子。
「うん!美味しい!!」
「麻理子も世の中の苦味が判る様になったのねぇ」
「何よそれ!」
遥子の言葉に麻理子は憮然とし、そんなやりとりに敏広達が笑う。
テーブルに料理が運ばれてくると4人の会話は今日のコンサートの感想から始まり麻理子の御替り3杯目のジョッキがテーブルに置かれる頃には、お互いの出逢った頃の話に以降していた。
中でも麻理子が興味あったのは遥子と敏広の出会いであった。
麻理子の知る限りでは遥子が敏広の様な軽い雰囲気の男と仲良くなるとは思えなかったからだ。
「遥子と敏広君達って何処で知り合ったの?」
「えぇ~と・・・神楽坂のロック・バーだったっけ?」と敏広。
「それもあるけど初めは下北沢よ」
「あぁ~H・Pだったな!懐かしい!!」と賢治。
遥子は大学1年の頃から2年間、下北沢にある『ヘヴンズ・プリズナー』とゆうライヴ・ハウスでアルバイトをしていた。
そこに近くの大学に通っていた敏広と賢治のバンドが何度か出演していたのだった。
「えっ!バンドやってたの?」と麻理子。
「うん。一応、現在進行形だけど」
「あら、まだ活動してたの?」と遥子が敏広に聞く。
「まぁ休止中だけどね。でも解散はしてないよ」と賢治。
「凄ーい!」
麻理子はこうゆう話題には結構反応が良い。
「意外に上手なのよ」
「遥子ちゃん、意外は一言多いでしょ」
敏広の言葉に笑いが起こる。
「バンド名は?」
「YASHIMA」
「ヤシマ?」
「永ちゃんが昔、ヤマトってバンド組んでたんだけど、それを参考にしたんだよね」
「あぁ!」
麻理子はこの頃、既に『成りあがり』を読み終えていた。
「それぞれのパートは?」
麻理子の興味は完全にバンドに向いてしまった。
「賢治がギターで俺がベース・ヴォーカル」
「それじゃ裕司君がドラム?」
「いや、元々は、あいつがヴォーカルだったんだよ」と賢治。
「えっ?そうなの?」
これには遥子が驚きの声を上げた。
そして話は3人の出会いにまで及んだ。
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