ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆093

翌日。Xデーの前日。


最終的に11時に調布駅パルコの前で待ち合わせという事に決まり、この日も川崎のOYHにて裕司への最後のレクチャーが行われていた。


「いいか?お前が楽しもうと思うな。あくまで主役は麻理子ちゃんだ。明日は1日、麻理子ちゃんの奴隷になって馬車馬みたいに働け。判ったな?」
「は、はい………」
拳斗のムチャクチャとも思えるアドバイスに力無く答える裕司。最早、誰の為のデートなのか判らなくなっていた。
「それじゃ今日は早く帰ってゆっくり休め」
「あ、判りました」
ソファから立ち上がる。
「がんばれよ!」
「麻理子をヨロシクね!」
「吉報、期待してるわよ」
皆に激励され店を後にする裕司。
「まるで中学生の初デートみたいね」と笑う眞由美。
「さて、どうなる事やら」と拳斗。
「寝坊とかして遅刻しなけりゃいいけどねぇ」
「それは大丈夫ですよ」
「あいつは時間に几帳面だし、いつも1時間前には待ち合わせ場所に来てますから」
「1時間前!?」眞由美と遥子が声を上げる。
「そんな早くに行って何してんのかしら?」
「そこで朝飯食ったりコーヒー飲みながら音楽聴いたり、本、読んだりとノンビリ待ってるのが好きみたいで」
「なるほどねぇ~」
「それなら遅刻の心配は無いな」
だがその時
「あぁっ!!」賢治が叫んだ。
「どうしたの?」
「ヤバいよ!肝心な事、忘れてた!!」
「何?」
賢治は敏広の方を見る。
「ほら、あいつのファッション!」
「あぁっ!!」
敏広も心当りがある様だ。
「あっちゃ~確かに一番忘れちゃいけない事だったな」
「どうゆう事?」
「あいつ・・・間違いなく明日も今日みたいな格好で行きますよ」
裕司はファッションには全くと言っていい程、無頓着であった。
別に悪趣味とゆう訳では無いが、どんな時も普段着のまま(昔はジーンズメイト。最近はユニクロ)で行動する為デートでもそれは変わらず、そのせいでかつて半日でフラれた事があった。


因みに、その時の相手は賢治の2つ下の妹、瑞希であった。
瑞希は賢治がバンドをやっているのを当然知っていたが当初は全く興味無しだった。
所が兄と同じ鷺沼平高校に入学して新入生歓迎会でのYASHIMAのパフォーマンスを観て態度が180度変わる。
当時の新入生の女子の間でYASHIMAの3人は最も注目すべき男子となり中でも始めは一番人気だった裕司に身内の特権で「お兄ちゃん裕司さんを紹介してっ!」と、せがみデートに漕ぎ着ける。
だが
「瑞希の奴、昼には帰ってきちゃったんだよ。どうかしたのかって聞いたら、初デートであの服装は無いって怒り半分、呆れ半分だったな」
「確かに彼が着飾ってる所って見た事無いわね」
しかも当の裕司は、この失敗談から現在に至るまで何も学んでいない。
「今からメールすれば?」と眞由美。
「無駄ですよ。そうゆう事に関しては本当に無頓着なんで」
「それに肝心の服を持ってないでしょうから」
「ここまで来てなぁ」
「ちょっと待って」と遥子。
「1時間前には待ち合わせ場所に行くって言ってたわよね?」
「うん」
暫し考え込む遥子。
「乗りかかった船。最後までお膳立てしなきゃYAZAWA仲間って言えないんじゃなくて?」
「何か案でもあるの?」
「ちょっと力技だけどね。拳斗さん、申し訳ないんですが明日の朝、協力して頂けませんか?」
「力技は得意分野だ。喜んで!」
「ありがとうございます!」
「俺達も手伝おっか?」
「是非お願い!」
遥子は携帯を取り出して2番目の姉の涼子に電話を掛けた。

つづく

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