最近、里香に彼氏が出来たらしい。
OYHの常連客の複数からそんな話が舞い込んでくる。
前年の11月辺りから里香の足が眞由美の店から遠退いており今年に入ってからは新年会の誘いも断り、まだ一度も来店していない。
その間に里香は東京方面にある幾つかのYAZAWAな店に同じ男と来店してるという目撃情報が入ってくるのだ。
眞由美は最近、顔を見せない里香の事を気に掛けていたのだが元気そうならよかったと安心していた。
そんな3月の半ば。
「こんばんは~!」
「あらぁ!久し振りじゃない!」
「御無沙汰してま~す!」
「ホントご無沙汰ですね!」
「あ~遥子ちゃん麻理子ちゃん!!」
奇しくも里香が初めてOYHに来店した時と同じ顔触れの店内。
「聞いてるわよぉ。最近、他の店に浮気してるそうじゃない!」
「えぇっ!?う、浮気だなんて………」
真顔になる里香に笑う眞由美達。
「冗談よ。また来てくれて嬉しいわ」
「………すみません」
「謝る事、無いわよ。今度は彼氏も連れてらっしゃい」
「!」本気で驚く里香。何で知ってるのかと目が訴えている。
「他のお客さんから聞いたのよ。人の口に戸は立てられないわ」
矢沢関連で顔の広い眞由美なら納得である。
「それじゃ今日の肴は里香さんの彼氏って事で」と遥子。
「えぇっ!」
「かんぱーい!」
里香を他所に勝手に盛り上がる眞由美達。
恥じらいながらも嬉しそうに里香は彼氏の話をし始める。
きっかけはYAZAWAファンのブログであった。
その彼氏が運営してるブログに里香がコメントを書き込んだ事が縁で、やりとりが始まり昨年のツアー前半の時期に実際に顔を合わせ年明けと同時に付き合い始める。
相手は里香がバツイチ子持ちなのを承知で付き合い幸い受験を控えてる永悟と千晶も応援してくれていた。
「今年の初めの頃に高田馬場にあるYAZAWAなお店(実在しません)で告白されちゃって、思わずハイッて答えちゃいました!」
「いいなぁ……」
「えっ?」
「あっ、何でもありません!」
麻理子の呟きに遥子と眞由美は互いの顔を見て笑みを浮べた。
真純に手渡された『恋のバトン』は着々と計画進行中なのだが当然ながら麻理子には内緒であった。
「それでぇ」
里香が続ける。
「その彼、実は前に話した彼とそっくりなんです!」
「あの里香ちゃんをYAZAWAに導いた彼?」
「はい!!」
「えっ?誰なんですか?」
その彼の話を知らない遥子と麻理子に眞由美は大まかな説明をする。
「声とか話し方も瓜二つで!運命の出会いかと思っちゃいました!」
「ハッピーな様でよかったわ」と笑う眞由美。
「写真……見ますぅ?」
「あるの?」
「わぁ!見たい見たい!」遥子と麻理子が乗り出す。
里香はバッグを開けて中から透明なビニール袋を取り出した。
「今どきプリント写真?」
写メかと思ってた眞由美。
「あぁ、これ高校の時の写真なんですぅ」
そっくりならそれでも同じ事。
出された写真を囲む様に眞由美達が集まる。
学ランとセーラー服の男女が写ってるその写真に3人の視線は先ず女子の方に向いた。
「これが高校時代の里香ちゃん?」
「わぁ!可愛い!!」
長い艶やかな黒髪に素朴な雰囲気の笑顔が初々しい。
そして眞由美達は同時に横の男子に視線を移す。
だがその途端、3人の顔から表情が消えた。
写真に写ってる男子の容姿。
どんなイケメンかと想像していたが、そこに写っていた者は丸坊主で目が細く吊り上がり団子っ鼻で口の周りはロバート・デ・ニーロ並に青黒くタラコ唇。
例えるなら、お笑い芸人の木○祐一に、それこそ瓜二つであった。
「こ………個性的な顔……………してらっしゃるのね……」
やっとの思いで言葉を捻り出す眞由美。
「も~う、はっきりカッコいいって言っちゃって下さいよぉ!うふふふふ💕キャッ!」
完全に恋する乙女と化している里香。
その痘痕も笑窪ぶりに眞由美達は二の句が告げなかった。
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