拳斗が眞由美を連れてきた店は国道16号から一つ路地を入った通りにあるステーキハウスであった。
西部劇に出てきそうなアメリカン・テイストの造りで店名はサンライズ。
《BGMはスペクトラムの♪サンライズ》
「いらっしゃい！おぉ！拳斗、随分早いなっ！」
プロレスラーのスタン・ハンセンに似た店主が厨房から顔を覗かせる。
「いや、今は客でヨロシクです」
「あら！今日は彼女連れ？」と店主の奥さんが笑う。
「いや、彼女って訳じゃ……」
「それにしても美人さんだなぁオイッ！」
「お嬢さん、拳斗君は恋人には最高よ」
大人にからかわれ照れて二人は沈黙してしまう。
昼時とゆう事もあり結構な賑わいだがテーブル席が２つ空いていた。
一番奥の席に着き注文すると
「馴染みのお店なのね」
「てゆうかバイト先さ」
「バイトしてるの？」
「あぁ。だから味は保障する」
セット・メニューのサラダとスープを食していると熱々の鉄板に乗せられたサーロイン・ステーキが二つ運ばれてきた。
「わぁ！凄っ！」
想像してた物よりも大きい、そのボリュームに驚嘆する眞由美。
肉汁の焼ける音と香りが何とも食欲をそそる。
また拳斗の方は更に大きく鉄板から、はみだしており、いずれにしても店主のサービスであった。
「育ち盛りだもんねぇ。あなた達はライス御替り自由だからね！あぁ他のお客さんには内緒よ」
と、突然小声になる奥さんに思わず笑う二人。
「頂きま～す！」
ガーリックとオニオンの効いたソースをたっぷりかけナイフを入れると簡単に切れてしまう程に柔らかい肉。
「美味しい!!」
「だろ？」
女子には大き過ぎると思われたが眞由美はライスの御替りこそしなかったものの余りの美味しさに簡単に平らげてしまった。
拳斗も当然完食。因みに大盛りライスを２度御替りしていた。
食後のデザートであるバニラアイスが運ばれてくると
「ねぇ、何か話してよ」
「何かって何を？」
「貴方の事なら何でもいいわ」
「何でもいいと言われると逆に話し難いんだがな」
「なら私が質問するわ。今、付き合ってる人は居る？」
「えっ？いや、居ないよ」
「それじゃ、好きな人は？」
「特に居ないな」
「よかった♡」
「えっ？」
「貴方の学校、男子校だけど、まさかホモじゃないわよね？」
「馬鹿言うな」
「それじゃ、どんな女がタイプ？」
「なぁ、質問の種類を変えてくれないか？」
「どうして？」
「………答えに詰まる」
「なら、私はどう？」
「あん？」
「私の事どう思う？」
殆ど直球な眞由美のアプローチに押され気味の拳斗。
そんな二人を店主と奥さんは厨房で微笑ましく眺めていた。
「…やっぱり俺から話そう！名は若林拳斗。横浦賀高校の１年」
「それはもう知ってるわ」
その後、拳斗は質問されるのを恐れてか自身のプロフィールを捲し立てた。
ＫＥＮＴの名付け親は日系アメリカ人の祖父、ジェイク・ワカバヤシ。父のランディが拳斗とゆう当て字を考えてくれた。
部活は陸上部。その後は月、水、金はこの店でバイト。火、木、土は空手の稽古。
バイトの目的は社会勉強と小遣い稼ぎ。それと賄いで食費を浮かす為。
ただ生活費は両親が充分な額を仕送りしてくれている。
その両親は仕事の都合で今年の８月に祖父母が住むシアトルに渡り以来この店の近くのアパートで一人暮らし。
「えっ？一人暮らしなの？」
「あぁ」
「なら帰ったら他に誰も居ないのね？」
「……当たり前だろ？」
「そっかぁ」
眞由美の顔が緩む。その表情は何処か嫌らしい。
「な……何だよ？」
「べっつにぃ♪」
気が付けば２時を廻っており今更学校に戻っても意味が無いと判断した拳斗は、そのままバイト開始時間まで店に留まる事に決める。
すると眞由美も店に残ると言い出し、店主は冗談半分で今日１日だけ臨時ウェイトレスをやるのはどうかと言いだしたら眞由美は二つ返事でＯＫをした。
月曜日の夜というと飲食店の客入りは余り芳しくない事が多く普段ならこの店も例外では無かったのだが何故かこの日は大盛況。
また働く経験が全く無い眞由美であったが奥さんのフォローと拳斗の的確なアドバイスのお陰で特に問題無く接客をこなし本格的にウチでバイトしないかと店主が提案。これがキッカケで眞由美は高校卒業まで拳斗と同じ月、水、金でここでのバイトを始める事になる。
やがて９時に閉店。掃除片付けを済ませると１０時近くになっていた。
拳斗が横浜まで送ろうかと言うと眞由美は「汗かいちゃったからお風呂を貸して」と言い出した。
幸い風呂付だったので拳斗は眞由美を連れて部屋に帰る。
少々散らかっていたが眞由美は気にせず部屋に入り無遠慮に寛ぎだす。
そしてその後は言わずもがな。二人は若さ故の欲望に感けて交わった。
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