よりによって『母』に主役の座を奪われた愛美と洋助。
だが、楽しければオッケーとゆう感覚の二人はその盛り上がりの輪の中に自ら身を投じる。
麻理子と遥子は輪にこそ加わらなかったがテーブルに着いたままその光景を楽しんでいた。
「こんな披露宴、前代未聞よね」と笑う遥子。
「うん。でも楽しいよ!」
「ホントにね」
2年前の麻理子だったらこうゆう雰囲気には馴染めなかったであろう。
曲が終り拍手と歓声が贈られ上機嫌の眞由美。
場の空気が一段落した所で
「ねぇ遥子」
「ん?」
少し間が空く
「本当にありがとう!」
「どうしたのよ急に?」と笑う。
「前から言いたかった事があるの。私……遥子に出会えて本当に良かったって思ってるんだ!」
「えぇ?」
「初めて逢った時の事、憶えてる?」
「…………うん」
「あの時、遥子が私を助けてくれて……それからも私の為に色んな事してくれたよね」
麻理子の目は少し潤んでいた。
「そして私が落ち込んでる時に、永ちゃん観に連れて行ってくれて………そのお陰でこんな楽しくて素敵な人達もいっぱい紹介してくれて……それに…」
はにかむ麻理子。裕司の事を言ってるのだろうと察した遥子の顔が綻ぶ。
「初めて永ちゃんを観に連れていってくれたあの時、遥子、言ってたよね。麻理子も今に判るわって。あの時はどうゆう事なのかよく判らなかったけど今は遥子の言ってた事が判る様な気がするの」
大きな瞳で遥子を見詰める麻理子。
「遥子はあの時、私に出会ってなかったら今の遥子は無かったって言ってくれてたけど……私の方こそ遥子に出会っていなかったら今の私は無かった………本当にありがとう!これからもずっと私の親友でいてね!!」
両手を伸ばし遥子の手を強く握る。
暫し見詰め合う麻理子と遥子。
「勿論よ」
と、その時
「おーい麻理ちゃーん!」
裕司の叫び声が聞こえた。
声の方に顔を向ける麻理子。
するとYASHIMAの面々が♪Sugar Daddyのイントロを繰り返し演奏しながら、すがる様な目で麻理子を見ていた。
何でも眞由美の御指名で裕司と麻理子でデュエットをしろという事らしい。
泥酔モードの眞由美の命令は絶対である。
眞由美が麻理子に危害を加える事は考え難いが、逆らえば、その制裁はYASHIMAに向けられる事は確実であろう。
「行った方がいいよ」と遥子。
「う、うん。判った!」
小走りでバンドの方に向かい裕司からマイクを受け取る。
「ありがとう!来てくれなかった俺達がエライ目にあってたよ」
その言葉にクスッと笑う麻理子。
「それじゃ行くよ!」
「うん!」
「ワン・トゥー・スリー・フォー!」
「Someone is in love with you~♪」
オォーッと、どよめく会場内。
苦手と言っていた割には麻理子の歌声は中々の物であった。
「いいじゃない!アツいわぁ!」
乳丸出しのまま一升瓶を傾け麻理子と裕司のハーモニーに御満悦な眞由美。
幸い麻理子は裕司とのカラオケデートで何度も一緒に歌っていたので♪Sugar Daddyには慣れていた。
そんな仲睦まじい麻理子と裕司をテーブルから眺めている遥子。
ふと先程の麻理子の言葉を思い出し、自身の想いを巡らせた。
《違うわよ麻理子。出会えて良かったのも、助けて貰ったのも、親友でいて欲しいのも私の方。
だって麻理子、貴女は……………私の天使なんだから!》
第参章:了
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