ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆137

「やっぱり似合うジャン!あんな地味ぃなのより全然イケてるよ!」

試着室から出され大きな鏡の前に立たされる麻理子。

「お似合いですよ!本当に」

遥子とショップの店員さんの太鼓判を貰ったせいか自分でも良い感じに思えてきた。

「ねぇ買っちゃいな!お金が足りなかったら私が貸してあげるから」
「う、うん!」

幸い麻理子の父、孝之はお小遣いに関しては気前が良く、また他に使う事も無かったので麻理子の懐はかなり暖かった。

新しい服を着たまま会計を済ませ

「はい!次は下着、行くよっ」
「ほ、本当に行くの?」
「当たり前じゃない!」

下着売り場に行き始めは麻理子に選ばせる遥子。しかし今着けているのと大して変わらない地味なのを選んでしまう。

「オシャレの基本は下着からよ。せめて私くらいの着けなきゃ駄目よ!」自らロンTの襟を引っ張り紫のブラチラを見せる。
「ちょ、ちょっと遥子!」
「まぁ折角ならこうゆうの選ばなきゃねぇ」とピンクの総レースのブラとサイド紐のショーツ、いわゆる紐パンのセットのハンガーを手に取る。
「そ、そんな恥ずかしいの着れないわっ!」
「あら、ウチの姉貴なんてもっと凄いの着けてるわよ」

今ではすっかりランジェリーにもこだわる様になったが、この頃の麻理子はまだそこまで大人には成れず、そこそこ可愛いデザインの物で遥子も妥協してくれた。

当然その下着も今直ぐ着けるように言われる。
さっきの事もあり、また無理矢理脱がされるのを恐れた麻理子は素直に試着室に向かい着替えた。
だがインナーが変わるとそれだけで気分も変わり、またファッションも良い意味で派手に明るくなったお陰で気持ちも晴れやかになる。

オシャレってこんな楽しい事なのか。麻理子の中で何か新しい自分が目覚める様な感覚が芽生えてきた。

「ねぇ、折角だから髪も変えてみようよ」

その後、遥子は麻理子を神宮前のヘアサロン『アルテミス』に連れてゆき当時はまだ駆出しの美容師であったが腕は確かな涼子にカット、カラー、メイクを施して貰った。

因みにこの頃の『アルテミス』のオーナーは遥子たちの父方の伯母で後に涼子に店を譲るのであった。

化粧は子供の頃に叔母の楓がしてくれた事もあったが堅物な父の目を気にして直ぐにメイクオフ。
またヘアカラーを入れるのも当然人生初。
メイクはナチュラルを基本とするもリップやシャドゥは折角なので冒険してちょっぴりアダルトな色を選びカラーは当時まだ一般に浸透してきたばかりの時代だったので黒よりほんのり明るめのブラウンをチョイス。

全てが整い鏡の自分に見入ってしまう麻理子。

《こ、これが私?》

「麻理子ちゃんすっごく綺麗よ!」

涼子が鏡越しに肩を抱いて微笑む。

「いいじゃん麻理子!涼ネェも流石!!」
「素が良いからよ」
「あら、ホントに綺麗ね!」

他のスタッフやお客さんまでもが麻理子に注目してくる。

その日をキッカケに麻理子は現在に至るまで涼子にヘアメイクをして貰う事になるのだがこの日、涼子は全てタダでやってくれた。

「いいのかなぁ……」

申し訳なさそうに店を出る麻理子。

「いいのよ。私だってタダでやってもらってるんだし」
「でも遥子は身内だから…」
「そんな事より折角原宿まで来んだから遊んで帰ろっ!」
「う、うん!」

初めてお化粧をしての外出。何だかそれだけでドキドキしてしまい廻りの世界が違って見える。

この日、麻理子は遥子と涼子のお陰で女の子の特権を思い切り楽しむ事が出来た。

「今日は色々ありがとう!何だか凄くドキドキしちゃった!」

本当に楽しそうな麻理子。

「折角、女に生まれたんだからオンナをもっと楽しまなきゃ駄目よ」

その言葉にハッとする麻理子。かつて楓が同じ様な事を言っていた記憶がある。

「なんてね。これは涼ネェの受け売り」

高校生活二日目の朝の時の様に舌を出す遥子。

「あははは、うん。でも……」

途端に表情が暗くなる麻理子。遥子は麻理子が何を考えているのか直ぐに察した。

「大丈夫よ。私が麻理子のお父さんに話してあげる」
「ホントに?」

帰宅する麻理子。遥子も一緒に中に入って行く。

「た、ただいま」

丁度玄関前の廊下に孝之が居た。

「……………どちらさまで?」

まるでコントの様な展開。孝之はこの時、麻理子に全く気が付かなかった。

「ちょ、お父さん!」

そう呼ばれマジマジと麻理子を見る孝之。

「な、何だ麻理子その派手な格好はっ!化粧までしてるのかっ!?」

予想通りの反応。ここで遥子が間に入る。

「おじ様、私が麻理子に薦めたんです。許してあげてください」
「へっ?あぁ………そうなのかい?」
「はい。でも今時の高校生、これくらいのオシャレは当たり前なんですよ。きっとおじ様なら理解して下さると思います」
「あぁ、うん……そうだねぇ…………た、たまにはいいかもねぇ」

孝之は遥子に弱かった。顔を合わせる度に「おじ様、お邪魔してます」と笑顔で礼儀正しく挨拶してくれるので若い女の子に免疫が無い孝之はそれだけで遥子の事が気に入ってしまっていたのだ。

「流石おじ様!心が広い!私、おじ様の様な包容力のある大人の男性って大好きです!」
「い、いやぁ、そんな事無いよぉ。あはははは!」

遥子はこの歳にして中々のジジ殺しであった。
ただ麻理子は父、孝之の遥子に対するデレェっとした表情には娘として少なからず幻滅していた。

つづく

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