結局、麻理子が試着に選んだドレスは全て胸が閊えて入らず泣く泣くドレス購入を断念しようと思っていた所、店員さんがストレッチ素材のドレスを持ってきてくれ着てみるとこれがピッタリ。
幸いデザイン的にも麻理子好みの物が有りその中からノースリーブで白地に小梅柄をチョイス。
またこの時、店がセール期間中だった為に購買意欲をそそられ色違いでラベンダーのドレスも一緒に購入。
遥子は最初の試着で選んだ長袖の黒地、紫地で共にゴールド刺繍のドレスを買う事に決めた。
会計中に店員さんが
「パーティーに着て行かれるんですか?」
「ちょっと違うんですけど…」と麻理子が笑う。
「でもある意味パーティーみたいなもんよね」と遥子。
「是非、色んなシチュエーションで使用なさってくださいね。そういえばこの前も矢沢永吉さんのファンの方がお見えになってお買い上げ頂いたんですけど」
意外な言葉に顔を見合わせる遥子と麻理子。
「実は私達も永ちゃんファンなんです!」
「えぇっ!そうなんですか?」
遥子と麻理子は外見上はYAZAWAな雰囲気を全く感じない。
「それじゃこちらもコンサートで?」
「はい!」
「ありがとうございます!矢沢さんのファンの方って本当に綺麗でカッコいい方ばかりですよね!」
社交辞令だろうがそれでも気分が良い。
商品を受け取り店を後にする。
「ありがとうございました。コンサート楽しんできて下さいね!」
「お世話様でした」
出口の外からずっと見送ってくれる店員さん。
そして、いよいよ麻理子が楽しみにしていたお食事タイム。
色々と目移りしながらも遥子が職場の先輩から聞いていた値段は比較的高めだが味は確かでランチ時でもゆっくり食事が出来るという店に入り高級中華料理に舌鼓を打ち、その後タピオカジュースを飲みながら中華街を散策。
途中、肉まんで有名な江戸清で麻理子はブタまんとエビチリまんの二つを買い両方交互に食べながら一口くれると遥子に差し出してくれたが遥子はランチで充分満腹だったので遠慮した。
やがて中華街の雰囲気に少し飽きてくると遥子が「ニューグランドに行ってみない?」と提案。
麻理子も二つ返事でオッケーし二人は山下公園方面へと向かった。
所が中華街東門を出た途端、急に雲行きが怪しくなり国道を渡るとポツリポツリと雨が降り出してニューグランドに着いた時は本降りになってしまっていた。
ロータリーで雨宿りする遥子と麻理子。幸い殆ど濡れずに済んだが完全に足止めを食らってしまった。
目前の山下公園通りでは傘が無くズブ濡れになりながら走ってゆく人達を何人か見かける。
「何だか……」
「あの時みたいだね」
遥子と麻理子は同時に昔の頃を思い出して笑った。
――――高校一年の一学期――――
衣替えも済んだ頃に下校途中で突然の大雨に見舞われ走って近くの公園の東屋へ避難する遥子と麻理子。
「何でよもう!南国じゃあるまいし!」と遥子がぼやく。
ハンドタオルで顔や頭を拭くが直ぐに許容量を超えてしまい濡れ雑巾の様になってしまう。
また雨のせいで初夏だとゆうのに急激に気温が下がり肌寒さを感じる。
「くしゅんっ!」
麻理子がクシャミをした。
「大丈夫?」
「う、うん」
だが顔色が優れない。
遥子は麻理子の頬を触った。
「ちょっと凄い冷えちゃってるじゃん!このままじゃ風邪ひいちゃうよ!」
「平気だよこれ位」
「平気じゃ無いよ!」
遥子は空を見上げた。雨足は止む所か益々激しくなってきている。
「私ん家まで走れる?」と遥子。
「う、うん」
遥子は麻理子の手を取って自分の家まで走り出した。
「ただいまぁ!」
勢い良く玄関の扉を開けて中に走り込む。
「お母さん!バスタオル2枚早く持ってきて!!」
「一体何事?」
母、響子が顔を覗かせる。
「あらぁ!麻理子ちゃん、いらっしゃい!!」急に表情が明るくなる響子。
「こ、こんにちは」
「そんな事より早くタオル持ってきてよ!」
「あぁ、そうね!」小走りで中へと戻る。
「麻理子ちゃんだって?」
響子の声を聞いて遥子の祖母が出てきた。
「おやおや麻理子ちゃん!よく来てくれたわねぇ!」
「お、お邪魔してます」
「お爺さん、麻理子ちゃんがいらっしゃいましたよ」と中へ戻ってゆく。
入れ替わりでバスタオルを持った響子がやってくる。
「大変だったわねぇ。大丈夫?」麻理子を拭いてくれる響子。
「は、はい」
「おぉ~麻理子ちゃん!暫くぶりだねぇ!」
今度は遥子の祖父がやってきた。
「ご無沙汰してます」
この様に槙村家の人々は皆、麻理子が訪れるといつも歓迎モードで出迎えてくれるのであった。
「寒かったでしょう?今、お風呂の準備するからゆっくり温まってね」
響子は実の娘である遥子よりも麻理子の方にばかり気に掛ける様になっていた。
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