ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆143

「山本さん、ちょっといいかしら?」
「あ、はい」

或る日、麻理子は職場の総合病院にて朝の業務が始まる前に上司に呼ばれた。

「何でしょう?」
「貴女の年休が余っていてね、今年一杯の期限の物が5日分、残ってるのよ」
「はぁ」
「別にいいんだけど折角の権利なんだから使わなきゃ勿体ないと思ってね」
「それはまぁ……」
「折角だから彼氏と一緒に温泉でも行ってきたら?」
「えぇーっ?」と照れる。分かり易いリアクション。
「要らないなら私に頂戴よ!」そこに同僚が会話に混ざってくる。
「貴女は休み過ぎ!」

翌々日の夜。

「あぁ~困ったわね」

久々に営業開始したOpen Your Heartのカウンターで真純は2枚のチケットを持て余していた。
真純は基本、東京周辺でのコンサートにしか参戦しないのだが極稀に思い付きで地方公演のチケットを確保する。

だが、その殆どが急な用事で参戦出来なくなり今回も追加で決まった沖縄での最終公演のチケットを買ったはいいが行けなくなってしまったのだ。

「眞由美ちゃん、また拳ちゃんと行ってこない?」
「折角だけど、そうゆう気分になれないわ………」

まだ披露宴で暴走した事を引きずっている眞由美。

因みに眞由美と里香(プラス洋助)が出会った地方のコンサートも元々は真純が確保して行けなくなり眞由美達に譲った物であった。

「こんばんは~」

そこに麻理子が来店した。

「麻理子ちゃん沖縄に行く気ない?」
「えぇっ!?」

真純の突然の申し出に驚く。話を聞いて納得するも当然、即答は出来ない。

「裕司君と一緒に婚前旅行で行ってきなさいよ」
「えぇ~っ!?」またしても分かり易いリアクション。
「とりあえずチケットあげるわ」と半ば強引にチケットを手渡される。
「えっ、でも……」
「いいからいいから。どうしても行けなかったら、それはそれで仕方無いから気にしないで」

麻理子は一昨日の年休の話を思い出した。
帰宅途中の電車内で裕司に事のあらましをメールしてみる。直ぐ返事が帰ってくるも流石にその前後は仕事を休めないとの事。

「どうしよう……」

自室で机の上にチケットを置き、それを眺める麻理子。
本当なら遥子が一緒に行ってくれれば一番なのだが最近の遥子は本当に仕事が忙しいみたいで多分無理であろう。

実はこの日もOYHで遥子と待ち合わせの予定だったのだが急な残業でキャンセルになってしまったのだ。

他に誘う人選をしてみたがどれもイマイチ、ピンと来ない。
母、香澄が行く訳無いし父、孝之は論外。職場の上司や同僚、大学時代の友人も武道館ならば誘い易いが沖縄となるとそうも行かない。
最悪、一人で行く事も考えたが折角、真純が譲ってくれたチケットを無駄にしたくない。

「やっぱり遥子と行きたい!」

麻理子はダメ元で遥子にメールしてみた。

翌朝、携帯を開くと驚く事に遥子からオッケーの返信が届いていた。

つづく

コメント

error: Content is protected !!
タイトルとURLをコピーしました