ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆153

3月前半の月曜日。四谷の自宅マンションで時計を見て遥子は飛び起きた。

「何で目覚ましが鳴らないの!?」

遥子は時計の他にテレビのタイマー、携帯のアラームと3重で目覚ましの設定をしているのだが、この時に限っては前日に、そのいずれもセットするのを忘れてしまっていた。

通常より1時間遅く起きた遥子。本当ならシャワーを浴びたい所だがそんな余裕は無い。
手早く着替え歯を磨き髪をブラッシング。すっぴんを隠す為にマスクをしてジャケットとスプリングコートを羽織り玄関へ。

所がドアを開けようとした途端右足のヒールがポキッっと折れた。

「きゃあっ!」

倒れ込みドアに激突。

イラッとしてヒールを投げ、物に八つ当たりしたくなる所だが深呼吸する。

「落ち着けぇ。こうゆう時こそ落ち着くのよぉ」

深呼吸を数回繰り返した後、下駄箱からジョギングシューズを引っ張り出し四谷駅へと走り出す。

駅に着くと改札前が異常な程に、ごった返していた。JRが架線トラブルで快速、各停共に運転を見合わせている為に振替輸送の客が皆、地下鉄方面に流れ込んでいたのだ。

しかも丸ノ内線は乗車率の許容範囲を超えてしまい定刻通りに動かない為、乗車待ちの人集りは益々膨れ上がり南北線方面にまで溢れていた。

遥子は電車を諦めタクシー乗り場に向かった。

幸いこちらの乗り場は殆ど並んでおらず直ぐに乗車する事が出来たが三宅坂を過ぎた辺りから大渋滞に巻き込まれてしまい全く進まなくなってしまった。

後で判った事だがこの時、祝田橋の交差点で大型トレーラーが横転。両車線を塞いでしまい皇居周辺の道路は完全交通麻痺状態に陥っていたのだ。

遥子はタクシーから降りて半蔵門駅まで走り有楽町線に乗車。
この判断が功を奏し都営三田線経由で始業15分前には内幸町にある会社に到達。

だが当然ながら通勤の疲労度はいつも所では無かった。

そしてオフィスに入るといつもなら誰よりも早く出勤している筈の上司、沢崎典子の姿が見当たらない。

そんな中、一人また一人と同僚達が汗だくで駆け込んでくる。電車の運転見合わせと渋滞の影響がここにも出ている様だ。

朝食を食べたい所だがここは女の身嗜みを優先して化粧室でメイクを始める。
デスクに戻ると、全社員の4分の1近くはまだ出社していなかった。

「こういう時って何か有るのよねぇ………」


遥子の長い一日が始まった。

つづく


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