「珍しいわね!コーラ飲みたいだなんて」
川崎Open Your Heartにて真純が、いつものハイネケンでは無くコーラを注文してきた事に眞由美が驚く。
「何か急に昔を思い出しちゃってね」
「昔?」
「サンライズ」
「あぁ~っ!」
眞由美が自分のコーラの栓を抜くと真純が瓶を掲げた。
「何に乾杯?」
「思い出にかしらね。それと私達の出会いに」
「クサいわねぇ!どうしちゃったのよ今日は?」
「それとサンライズの御主人と奥様に」
それを聞くと眞由美もちょっと切なくなる。
横須賀のサンライズは既に閉店。店を売却した後に夫婦揃って南の島で静かに暮らしていたのだが最近奥さんが亡くなったと風の便りで聞いた。
そして当時の事を思い出す。
サンライズでの真純と眞由美の会談は予想以上にスムーズに運んだ。
真純の話し方が論理的で判り易い事も有ったが実際に面と向かって話を聞くと拳斗の言う通り眞由美も噂で聞いていた『歪虜怒王』総長の人物像とは全く違う印象を受けた。
「成程ねぇ。確かに誤解してたわ」
「信じてくれるの?」
「嘘を吐いてる様に思えないもの。それ位の判断力、私にだって有るわよ」
始めの敵意丸出しだった表情が消え穏やかな微笑みを浮かべる眞由美。
「良かった。ありがとう!」
その時
ドン!
拳斗が真純と眞由美の前に馬鹿デカいプレートを置いた。
香ばしい香りに食欲をそそる肉の焼ける音。だがその大きさに真純は唖然と固まる。
「おやっさんの奢りだ」と拳斗。
それを聞いて真純は厨房の方に目を向ける。
ニッコリ笑ってテキサスロングホーン(スタン・ハンセンのキメポーズ)を立ててる店主に真純は呆気に取られた表情のまま頭を下げた。
「最初あのお肉を見た時はホントたまげたわよ!」
「おやっさんは気前の良い人だからね」
「だけど普通あんなの食べきれないわ!」
「でも完食してたじゃない」
「だって凄く美味しいんだもの」
その日以来サンライズの味の虜になった真純は遥々川崎から週1ペースでサンライズに訪れる様になり、また、これが縁で眞由美と拳斗の二人とも交流を重ねる様になった。
思えば、この頃の真純には友人と呼べる存在が居なかった。
自分を慕ってくれる後輩は数多く仲の良い同級生も居たが誰もが自分に対してよそよそしいとゆうか何処か遠慮がちな態度の者ばかり。
そんな真純にとって眞由美と拳斗は他の者達と違い自分に対して、いつ何時でも本音で向き合ってくれる本当の友達であった。
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