ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆199

「少し話せない?」

商業用のハイエースに乗っていた仕事中と思われる、その女性に誘われ近くのファミレスへ。

自己紹介もそこそこに矢沢談義に話が弾むと女性は程なく莉奈が現在所有している車を手放した理由を話し始めた。

何でも女性の姪っ子、妹夫婦の次女が重い腎臓疾患を患ってしまい、その手術費用を捻出する為に車を売ったのだそうだ。

だが手術目前に亡くなってしまったとの事。

「まさかこんな形でかつての愛車と再会するなんてねぇ」

感慨深い表情で窓越しに車を眺める女性。

仕様が仕様だけに中々売れないと知り合いでもある店主に散々ボヤかれ、ならば買い戻すと連絡を入れると「今さっき売れた!」と返答され、その時は良かったのか悪かったのか複雑な気分になった。

「すみません私みたいなのが……」
「とんでもないわ!確かに貴女の様な雰囲気の人が乗ってるとは夢にも思わなかったけど」と笑う。

莉奈はどっからどう見ても普通の女の子でYAZAWAな雰囲気は微塵も感じない。

女性はもう一度、車へと視線を送る。

ピカピカに磨かれたその車体はしっかり手入れされているという事がよく判る。

「大事に乗ってくれて有難う……」

そっと莉奈の手を握る女性。その優しい瞳には薄ら涙が浮かんでいた。

この女性とは残念ながら、それっきりであったが、その後、自発的に永ちゃんのCDを買ってはコンサートにも積極的に参戦する様に成り、大学を卒業して新社会人に成る頃には一端のYAZAWAファンになっていた。

ただ、それが原因で学生時代からの友人とは段々疎遠になってしまい彼氏からも「俺とヤザワどっち取るんだよ?」と迫られ莉奈はアッサリYAZAWAを選んでしまう。

その後、莉奈はYAZAWA繋がりで知り合った6歳年上の男と付き合い始めるも男が仕事の為に福岡へ。

1年の遠距離恋愛の末に円満に別れる事になり直後に元カレから復縁を迫られ「私から絶対に永ちゃんを取り上げない事」を条件に寄りを戻し、その後、結婚。

今は家事、仕事をしっかりとこなしながら自由でYAZAWAな人生を送っている。


「そういえば莉奈ちゃん、遂に去年、達成したそうじゃない?」
「はい!」
「達成?」と千晶。
「莉奈ちゃん、去年の永ちゃんのコンサート、全国制覇したのよ」
「ええぇーーーーーーーっ!?」

千晶だけでなく永悟に里香、麻理子達も本気で驚き澄子も当然、例外では無かった。

「正確には全てのコンサートに参戦したのよね」
「皆勤賞とは大したものだな」と拳斗も笑う。
「私、ファン歴が浅いから少しでも多くコンサートを観たくって」

莉奈は自分の携帯を開き画面を自慢気に見せる。

それは各会場で貰えるメモリアル・チケットの全てを部屋に並べ携帯で撮影した物であった。

「スッゲェ!壮観だなぁ!」と敏広。
「だけど、よく旦那も許可してくれるなぁ!」と剛健が呆れる。
「やるべき事ちゃんとやってるんだから文句は言わせませんよ!それに反対されたら切り札出しますから」
「切り札?」
「離婚です」

笑いが起こる。

復縁を受け入れた事も有り莉奈の夫婦生活のイニシアチブは完全に莉奈が握っていた。

因みに莉奈の旦那は未だに矢沢ファンでは無く、むしろYAZAWA絡みを何処か避けている様であった。

つづく

コメント

error: Content is protected !!
タイトルとURLをコピーしました