ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆215

真純の父、村上昌繁は当時、永田町で影の総理と呼ばれた超大物国会議員で母、小夜子は川崎の花柳界にて後に女帝と呼ばれる売れっ子芸者であった。

昌繁の妾でもあった小夜子は真純を身籠ると周囲には何も告げずに川崎の夜の街から姿を消し出産後は今で言うシングル・マザーとして母娘二人で静かに暮らしていくつもりであった。

だが小夜子の消息不明の話を聞いた昌繁は直後に政界引退を表明。

この突然の引退宣言は当時の政財界を震撼させ、しかも同時に離婚まで明らかにした事実は当時のマスコミを色めき立たせたが、その原因が記事として紙面に掲載される事は無かった。正確には出来なかった。

全ての財産を元妻とその子供達に譲ると昌繁も表舞台から姿を消し自身の持つ人脈を駆使して1年後に小夜子と真純を見つけ出す事に成功。

ここで小夜子は昌繁からのプロポーズを1度は断るも、その熱意に押され更に半年後に結婚。
引退したとは言え昌繁の影響力は大きく企業の相談役、講演依頼、出版等、仕事に困る事は無く、また古巣から復帰を切望され続けていた小夜子も真純の結婚を機に夜の街へと戻る。

因みに真純の縁談は父、昌繁が手配した最初の見合いで相手は佐野宗昭とゆう6歳年上の真面目な商社マン。

しかも父親は港湾事業で財を成し川崎のゴッド・ファーザーと呼ばれた佐野宗憲。兄は神奈川県議の宗忠と議員秘書の宗朝。

恋愛、結婚に幼い幻想を抱いていなかった真純は相手に不満も無かった事から高校卒業直後にあっさり結婚に同意した。

現在、昌繁は他界。小夜子も引退はしたが健在で今でも川崎の繁華街では強い影響力を持っていた。

故に真純は『村上翁の御令嬢』『女帝、小夜子姐のお嬢』『GFの御身内』更に『歪虜怒王初代総長』という様々な『肩書』のお陰で本人の意思と無関係に周囲から女王様扱いをされてしまい当初はそれを嫌がっていたのだが今では「使える肩書ならトコトン使いましょう」と居直り自身の持っている影響力をフル活用していた。

ただ当然ながら真純がその影響力を使うのは仲間や周囲の者達の為に限った事で自身のエゴや筋の通らない要望等に利用した事は一度も無かった。

また眞由美が水商売を始める際に色々と相談に乗ってくれたのも真純と小夜子であった。
小夜子は夜の世界の苦労を人一倍解っている故に最初、娘の友人である眞由美がその世界に足を踏み入れる事に猛反対。
だが眞由美の覚悟が並々ならぬ物である事を悟って容認。今でも気にかけては半年に1度位の頻度で来店、様子を見に来てくれている。


「……やっぱ情事さんって怖い人だったんですね……」
「別に怖くは無いわよw」と眞由美が笑う。
「だけど、そんな話、聞いちゃうと明日から情事さんと、どんな顔して接したらいいのか……」
「考え過ぎよww」

そこに、その情事こと真純が来店してきた。

「揃ってるわね!」
「いらっしゃい!」
「あっ!!」
「こ、今晩は!!」
「い、いつもお世話になっております!!」

妙に余所余所しい敏広達。

「何よ?急に改まっちゃって」
「いまさっきアンタの黒歴史をバラしたのよ」とニヤける眞由美。
「なーによそれっ!?」

ハイネケンをいつもの様にラッパ飲みする真純。すると唐突に

「それよりもアンタ達、ラッパのパートはどうするの?」
「ホーン・セクションですか?加奈子のキーボードにやって貰ってますけど」
「もし良かったら本物のバンド使う気、無い?」
「えっ!?」

突然の案件に驚く敏広達。

「何かアテでも有るんですか?」
「明日も練習だったわよね?午前で切り上げて午後は私に付き合いなさい」

つづく

UnsplashでJayが撮影した写真
Gion Hanamikoji Street, Kyoto, Japan – Jayが撮影したこの写真をUnsplashでダウンロードする

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