ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆230

2曲目が終わるとステージ上手側にスポットライトが当てられる。

「よーこそぃらっしゃいどーもっ!!」

バンマスの敏広によるYAZAWA風の挨拶に拍手と笑いが起こる。

「12年ぶりにYASHIMA、オリジナル・メンバーでの完全復活です!」

これには豊とサギ高軽音部OB、それから美由紀が大拍手を送ってくれた。

「今回、俺達のサイコーな仲間の呼掛けで我々の大切な人にYAZAWAの、永ちゃんの素晴らしさを伝えたくて、この様な場を設ける事になったんですけど~」

敏広の、この言葉に澄子が瞳を潤ませる。

「今から、俺達YASHIMAが全力で永ちゃんの凄さを表現したいと思いますんで最後までゆっくり楽しんで下さいヨロシクゥ!!」

再びの拍手と歓声の中、演奏に戻るYASHIMA。

3曲目は雰囲気がガラリと変わり敏広がスロー・テンポでベースをスウィングさせる。

途端に着席し始めるYAZAWAファン達。

そんな中で、つっ立ったままのサギ高OB、OG達に豊が「お前等、座れ!」と叫ぶ。

「お前ぇ~だけがぁ~♪」

絞り出す様に♪ゴールドラッシュを歌う裕司。

その中、2階席の真純は今回のセット・リストに思いを巡らせていた。

《神崎さんの事、思い出すわねぇ》

実は今回のライヴの選曲は主に神崎雄一郎が好きだった曲で構成されていた。

生前、雄一郎は、この曲が収録されているアルバム『ゴールドラッシュ』を特に気に入っていた様でカラオケでマイクを渡されると、いつもこの中の曲ばかりを選んでいた。

♪昨日を忘れて♪ボーイ♪今日の雨と続くと最前列に居る眞由美や拳斗、愛美も自然と雄一郎の事を思い出してしまっていた。

訳有って♪ラッキー・マンと♪さめた肌の2曲を外した選曲の中、眞由美が目尻を指で拭うと立て続けに曲は♪時間よ止まれ、へ。

矢沢永吉の楽曲の中では最も有名な物である為か、この時にはサギ高吹奏楽部父兄達、一般客の反応も上々な様であった。

ただ、大人しい曲が続いて間延びしてしまった様な空気にYAZAWAファンがダラけてきてしまってるのがステージ上からでも判り、続く♪ガラスの街ではイントロが流れ出した途端、そのYAZAWAファンが一気に立ち上がって会場全体での大合唱となってしまい、その盛り上がり様は、もしかしたら本家、矢沢永吉のコンサート以上なのではと思える程に凄まじい物であった。

そして賢治がスティーヴィー・レイ・ヴォーンの様なダイナミックなストロークでGコードのリフを刻むと観客のヴォルテージは最高潮に達した。

「皆さん楽しんでくれてますぅ~!?」

敏広がマイクで叫ぶと観客も大いに沸き、最前列の眞由美に愛美、美由紀達も思い切り楽しんでるのが見て取れる。

その時、美由紀と目が合いウインクする敏広。
それに美由紀が照れた表情で「バカ」と呟く。

やがてワゥを効かせたDドミナント7thコードを賢治が掻き鳴らすと雄叫びの様な歓声が客席から上がる。

「鎖ぃ~にぃ~つながぁれてぇ~♪」

裕司が歌いだすと1階席のオーディエンスは皆揃って縦ノリを始め、その躍動感は会場全体が揺れている様に錯覚してしまう程とてつもない物であった。

「ゴールドラッシュ!馬ぁ車ぁ~を~出せ!!」

一階席のあちらこちらでタオルが舞う。

その光景に目を見開く澄子。

いわゆるタオル投げの本番は、まだまだ先なのだが千晶も思い出したかの様にタオルを手に取り曲に合わせて天井へと高く舞上げる。

間奏に入ると客席からはドデカい永ちゃんコールが歌われ、それに負けじと賢治のギター・ソロが歌い叫ぶ。

オーディエンスと賢治との真剣勝負。

両者一歩も引かぬデッドヒートに澄子は堪らず息を飲み、また、この刺激的アンビアンスに今迄味わった事の無い気持ちの高ぶりを感じつつ裕司の歌声に酔いしれるのであった。

「お前と~俺の~ゴールドラッシュ!Ah!!」

裕司は最後まで歌いきると曲のエンディングを待たずに一度ステージ上手側へと引っ込んだ。

ステージ中央では敏広と賢治がモニター・スピーカーに足を乗せロック・スター気取りで派手なアクションをキメながら弾きまくる。

完璧と言えるパフォーマンスで曲が締め括られると、程無く、ゴダンのエレアコを持った裕司が再びステージに姿を現した。

「おっ!弾き語りか?」
「裕司君、親友、歌ってぇ~!」
「雨のハイウェイ歌えぇ!」
「いやいや、ひき潮だろぉ!」

飛び交う様々な声に微笑みを浮かべつつ裕司はステージ中央に戻ると一度、2階席の方に目を向けた。
最前列に座っている澄子を見付けると今度は天高く見上げる。

《神崎さん、神崎さんが言えなかったであろう想い、俺が澄子さんに伝えます》

つづく

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