敏広が一番手でステージに出てくると永ちゃんコールが止み一斉に歓声が上がる。
「Hey!One Two!!」
更に沸く会場。
だが敏広は突然、神妙な面持ちとなり
「えぇ~っ皆さん、実は残念なお知らせが有ります………」
その重々しい物言いに響めく場内。
「これから演るのはアンコールでは有りません………」
静まる場内。すると敏広はニヤリと笑い指を2本立てて突き出した。
「今から第2部に突入ですっ!」
一瞬の間を置いて、再び歓声と拍手が鳴り響く。
「まぁ!第2部って事は、まだまだ彼等の演奏が聴けるのね?」
「はい!」
澄子の、本当に嬉しそうな表情に麻理子も真純も、それだけで感極まりそうになる。
「まだまだ終わらせませんよぉ!みんなの魂に共鳴する迄、俺達はステージを降りないぞ!!」
「何でもいいから早くやれぇ!!」と剛健がヤジると
「お客さぁ~ん!焦っちゃダメッ!!」
敏広のアダルトなオネェ言葉に笑いが起こる。
「今、ヴォーカルがウ○コに行ってて裕司待ちで……」
「行ってねぇよっ!」とステージ上手側から裕司の叫ぶ声が聞こえてくる。
この時、裕司は敏広の代りにステージ袖でベースのチューニングを合わせていた。
「おぅ裕司、ちゃんと手、洗ったか?」
「だから行ってねぇっつってるだろ!」
チューニングを終えステージに出てきた裕司が敏広をグーで小突きながらベースを手渡す。
その裕司はパナマ・ハットにダブルの白スーツという完全YAZAWAモードの出立ちで登場。第1部同様サングラスはかけたまま。
「まぁ素敵!」
澄子も裕司の白スーツ姿に感心し
「畜生!カッコいいなぁ!」
豊や剛健、他の男達も唸る程に裕司の白スーツ姿はよく似合っていた。
「麻理子ちゃん惚れ直しちゃうんじゃない?」
「えぇ~っ?」
真純の冷かしに照れる麻理子。
その合間にバンドのセッティングが全て完了。
ステージ上のメンバーが加奈子に注目する。
軽快なロックンロール・ピアノが鳴り出すと、それに合わせドラムスの清純がカウントを取る。
ノリノリの演奏と共に生のホーン・セクションが加わった分厚いサウンドに大盛り上りになるオーディエンス。
「切符は要らない~不思議な列車で~♪」
白マイクスタンドを握り締めステージ前方ギリギリにまで乗り出して熱唱する裕司。
その左右で派手に弾きまくる賢治と敏広。
そして加奈子の隣には何と琴音の姿が。
実は前日のリハ終了後に加奈子が「プランBになったらコットンも一緒にやろうよ」と提案。
始めは遠慮していた琴音であったが部員達にも煽られ受託。
基本、加奈子の鍵盤のサポートが主な役目であったが、手が空いた時には自発的にタンバリンでリズムを取ったり加奈子と共にバック・コーラスを歌っては演奏を盛り上げ、やがて時が経つにつれ乗りに乗って踊りだし、もしかしたら、この第2部ではバンドやオーディエンスよりも琴音が一番楽しんでいるんじゃないかと思える位の、それはそれはドラムスの清純が目を丸くする程に見事な弾けっぷりであった。
だが、それが一緒にステージに居る部員達を更にリラックスさせる事に繋がり彼等も思い切りライヴを楽しみ見事なサウンドを鳴らしてくれた。
この圧倒的なアンサンブルにYAZAWAファンも熱狂。また、それ以上に喜んでいたのがサギ高軽音部員の父兄達であった。
第1部では居心地悪そうにしていた、この父兄達もステージ上で楽しそうに演奏している我が子を観て感動、感激しており、また、2階席後方で斜に構えて観ていた清純目当ての者達も麻理子達の居るブロックの左右に移動してきては1階席のYAZAWAファンと同様にライヴを素直に楽しみだす者も多く出てきた。
そして澄子も第2部では席から立ち上がり楽しそうに曲に合わせて手拍子を叩いては時に横に居る千晶と共に千晶のリードで一緒に踊ったりしていた。
それを見て護は心配そうな表情で立ち上がろうとしたが徹が肩を掴んで静止。
何かを悟った様な表情で首を振る徹を見て護は立ち上がるのを止め深く椅子に座り直した。
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