ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆238

「これで良しっ!」

YASHIMAのライヴ終了直後、打ち上げを兼ねた澄子のバースデー・パーティーの準備の為、娘の愛美と共に会場を一足先に出た眞由美は自分の店のテーブルで、たった今デカイ紙にマジックで書いた『お知らせ』を満足気に眺めていた。

そのお知らせとは

『本日完全貸切!関係者以外立ち入り禁止!入ったら殺す!!

特に『殺す!!』の部分は妙に力が籠っている。

「ママァ!そんな物騒な物お店のドアに張るの止めてよぉ!!」
「これ位、書かなきゃ効果無いでしょっ!ただでさえ普段は貸切だってぇのに勝手に入ってくる馬鹿が居るんだから!」
「逆よ!そんなの面白半分で入ってくる馬鹿を招いている様なモンよ!」

手際良くグラスとプレートを乗せたトレイをカウンター上に並べる愛美。

「それに、そんなの貼らなくても今日は本来、定休日なんだし。Closeのプレート掲げておけば部外者は入ってこないでしょ!それでも心配なら皆が集まったら内鍵かければ済む事じゃない」
「………あんた、頭いいわねぇ。誰に似たのかしら?」
「そんなの誰だって気付くわよぉ!」

そこに洋助がいつもの様に裏口から入ってきた。

「ダーリンお帰りなさぁい
「ただいまハニー

バースデー・ケーキの箱をそっとテーブルに置いて愛美を抱きしめる洋助。
そのまま熱いキスを何度も交わす。結婚3年目でもラブラブの二人。

「ケッ!馬鹿夫婦共がっ!」

眞由美がそんな二人を見て吐き捨てる様に悪態を吐く。

そこに正面入口から拳斗が入ってきた。

「あっ!ダーリンお帰りなさぁい

娘の真似をして猫撫で声にキス顔で拳斗に抱きつこうとする眞由美。だが

ぐわしっ!!

デカイ手で顔面にアイアン・クローを喰らわされ止められる。

「拾い食いでもしたのか?」
「何よそれっ!!」
「そんな事より、もう直ぐ主賓がお見えになるぞ」

それを聞いてお仕事モードに切り替わる眞由美。愛美と洋助も準備に戻る。

程なく、その主賓である澄子が徹、護、そして千晶と共に訪れ少し遅れて里香、永悟、明夫が来店。

因みに永悟のカノジョはYAZAWAな雰囲気に馴染めずライヴを途中退席して帰宅。数週間後、二人は別れる事となるのであった。

乾杯は参加メンバーが全員揃ってからという事で先に来店した澄子達にアイスコーヒーやアイスティーが振舞われる。

それから30分位経った頃に本日の一番の功労者であるYASHIMAのメンバーと麻理子が到着。

また、敏広や真純の好意で豊と美由紀も誘われ、特に豊は店の存在は知っていたが初めて訪れるOpen Your Heartの店内の雰囲気に大興奮していた。

そんな中

「あらドラムの方は?」と眞由美。
「あぁ、帰られました」
「まぁ、ツレないのねぇ」
「明日、朝イチでロンドンに旅立たなきゃならないそうで」
「ロンドン!?」

実は清純は一度キャンセルになったレコーディングのオファーが急遽、復活してしまったのだがYASHIMAのサポートの為にそれを断り、それでもしつこくロンドンのエンジニアに泣き付かれたので今日のライヴが終わってからなら引き受けるという事で本職を後回しにしてくれていたのであった。

「いい人ねぇ~!」
「本当に有難いですよ!それから皆さんに宜しくと」
「人柄もそうだがドラムの腕も凄かったな!」
「世界最高峰のグルーヴ・マスターですからね!ホント最高な体験をさせて頂きましたよ!!」

拳斗や敏広達だけでなく麻理子や豊達、皆が清純のドラムを絶賛する。

直後に真純が到着。琴音は別件の為、1時間位遅れるとの事で先に乾杯を始める事に。

すると

「私もビール頂いて宜しいかしら?」と澄子。それを聞いて
「ちょ、大丈夫ですか?」と護。
「えぇ!何だか今日は飲みたい気分なの!敏広さんも最高に美味いビール飲んでって言ってたじゃない」

それを聞いて麻理子は以前、クラⅡの打ち上げでの自分を思い出した。《071参照》

アイスティーの入った澄子のグラスを愛美が回収して新しいグラスを置くと空かさず敏広がビールを注ぐ。

「まぁ!ありがとう!」

グラスを手に取り敏広からのお酌を受ける澄子。

「とんでもない!こちらこそ楽しんで頂けた様で」

移動中に麻理子から今日、澄子が本当に楽しんでくれていた事を聞かせて貰っていた。

「本当に素晴らしかったわ!こんな興奮冷めやらない楽しい一日なんて生まれて初めてよ!」
「ありがとうございます!」

今度は澄子が敏広にお酌をしてくれる。

他の者達のグラスにも次々とビールが注がれる中、どさくさに紛れて千晶が自分のグラスにビールを注ごうとした所、里香に見つかって、また怒られては笑いを誘う場面も有った。

因みに、それ程までに酒に興味津々な千晶であったが、こういうYAZAWAな集まり以外で酒に手を出した事は無く、隠れて自分でアルコール類を買うなんて事もしなければ悪い友人達の酒の誘い等は、ちゃんと断るという点では真面目な娘であった。

「千晶ちゃんはイイ酒飲みになりそうだな」と拳斗が苦笑。
「羨ましいですよ。お酒を楽しもうって気持ちになれるのが……」とジンジャーエールの入ったグラスを持った徹が漏らす。
「あぁ、お車でしたよね?」
「えぇ」
「そちらは?」

拳斗が護の方にビール瓶を向ける。

「いや、ウチは兄弟揃って下戸でして……」と護もジンジャーエールを愛美から受け取る。
「親父も飲まない人でしたから」
「さぁて!みんな用意はいい?」

真純の声に皆が注目。

「それじゃあ今年は麻理子ちゃんに乾杯の音頭を取って貰いましょうか」
「えぇっ!?」
「やっぱ今回の総合プロデューサーに最初の挨拶をして貰わないとネ!」

皆の視線が麻理子に集まる。

「あ……それじゃ、先ず、澄子さん、お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとう」

ニッコリ笑って会釈をする澄子。

「YASHIMAの皆さん、お疲れ様でした!」
「OK Rock’n’Roll!!」

威勢の良い敏広達の返事が響く。

「そして情事さん、この度は大変お世話になりました。それから眞由美さん、今回もお店を提供して頂き……」

形式的だが心の篭った麻理子の挨拶が続く中、ふとカウンターの方から食欲を唆る馨しい香りが漂ってきた。

「おおっと!アカンアカン!」

洋助がグラスをテーブルに置いてカウンターへと小走りに向かう。

加熱中であった、この日の朝から仕込んでおいた洋助特製のビーフ・シチューが温まった様だ。

そしてその時

くぅ~~~~……

突然、麻理子のお腹が鳴り出した。

一瞬、呆気にとられる仲間達。麻理子が赤面すると同時にドッと笑いが起こる。

「まぁでも気持ち解るよ」
「私もお腹ぺこぺこぉ!」
「昼から何も食ってないからなぁ!」

YASHIMAの面々が麻理子をフォローしてくれる。

「それじゃ麻理子ちゃんのお腹が催促してるから、そろそろ乾杯しましょう」とチョット意地悪な真純。

そして乾杯の後、麻理子には洋助から一番大きいお肉が入ったお皿を手渡された。

「ぎょうさん作ったからナンボでも御代わりしてやぁ!」


つづく

コメント

  1. Baybreeze より:

    このパーティで振る舞われるお酒とお料理にすごく興味があります
    チョイスされるお酒は何かな~~
    ビーフシチューの次にどんなものにみんな歓声あげるんだろう
    皆からこんなにhappyをプレゼントされる澄子さんて・・・・
    容姿のイメージが浮かばなくて、キャラ設定に戻って、全部読み直しました^^
    小百合さんだったんですね(・∇・❤ฺ)♪ 亡くなったご主人は緒方拳さん
    YAZAWAに目覚め、お酒に目覚め・・・
    澄子さん人生の新しい扉を開けるのでしょうか?(笑)

  2. AKIRA より:

    Baybreezeさん♪^^毎度センキューどーもです
    http://ip.tosp.co.jp/i.asp?i=BayBreeze
    すんません料理に関しては打ち止めであります
    あぁでも、まだ掲載してないから追加しよっかな
    後は次回乞うご期待って事で(笑)
    澄子のイメージは掲載前から確定しておりまして雄一郎は当初、志村喬をイメージしてたんですけど書き進めていく内に何か違うなと思い途中で変更しました
    この女トラも、いよいよ大詰めですので今後もヨロシクお願いします

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