高校時代、犬猿の仲であった敏広と美由紀のカップリングは当時を知る者達からすれば正に青天の霹靂で加藤豊もライヴ直後、二人が一緒に居る事に目を疑い、これから付き合うと聞かされた時は目玉とリーゼントが飛び出る位に驚いた。
また、この日、ライヴに参戦したサギ高軽音部OB達も
「あの鮫島美由紀と松岡先輩がなぁ!!」
と居酒屋にてライヴの感想そっちのけで二人を噂しては盛り上がり、そのせいか敏広と美由紀の二人は、この時、交互にくしゃみを連発していた。
「くしゃみする程、仲が良いってかぁ?」
「何だよそりゃ?」
この場に居る者達も二人の馴れ初めや高校時代の思い出話等を興味深く聞き、やがて敏広が賢治のオベーションを借りてカウンターの止まり木に移動しては弾き語りを披露。
♪アイ・ラヴ・ユー,OK♪二人だけ♪A DAY等を美由紀を見詰めながら捧げる様に歌い周囲から冷やかされるも美由紀は涙を浮かべる程に感動して聴き入り同時に女性陣が美由紀を羨む中
「澄子さん、結婚式には御招待しますんで是否、居らして下さい!!」
「えぇっ!?」
驚きながら笑う澄子。
「そんな事よりぃ!」
千晶が突然口を開く。
「澄子さん来年は本物の永ちゃん私と一緒に観に行こうねっ!!」
「ちょっとちょっと千晶ちゃん!そんな事って何だよ!?」
「だって、それが何よりもトップ・プライオリティだもん!!」
「来年は永ちゃんも還暦」
「デカいイヴェントやるのは間違い無いですよね」
「(東京)ドームだって噂だけど」
「良かったぁ!ドームだったら武道館よりチケット取り易いもんね!」
「まだ噂よ。決まった訳じゃないわ」
「ねぇ!来年、一緒にドームで永ちゃん観よっ!」
「いいわねぇ!でも………私が生きてたらね!」
穏やかで無い事をアッケラカンとした表情で言う澄子。
「も、もう止めてよぉ!そうゆう冗談!」
笑うしか無い千晶。皆も釣られる様に笑う。
ただこの時、寺田兄弟と拳斗の3人だけは笑えなかった。
「うふふふ。ありがとうね千晶ちゃん。だけど……」
澄子が姿勢を正す様に座り直し廻りを見渡す。
「皆さん、今日は、いえ、今日も本当にありがとう!少しお話させて頂いて宜しいかしら?」
改まった様子の澄子に皆、集中する。
「私なんかの為に、こんなにも盛大なイベントを計画して下さって、そして今年もお誕生会まで開いて下さり皆さんには私、本当に感謝してもしきれない位にお世話になりっぱなしで………」
少しの沈黙
「何より今日のコンサート、本当に感動しました!裕司さんのお唄、敏広さん達バンドの方々の演奏、何もかもが素晴らしくて。そして拳斗さんや眞由美さん達が、あんなにも楽しんでる姿が凄く印象的で……」
ここで拳斗、眞由美、愛美達が照れ臭そうな笑顔を浮かべる。
「会場に居らっしゃる皆さんがお祭りの様に楽しんでる姿を拝見して、あぁ、皆さん本当に矢沢さんの事が大好きなんだなぁと。主人が生前、何故あんなにも矢沢さんに夢中に成ったのか改めて理解出来る様な気がしました!」
YAZAWAファンにとって、この澄子の言葉は何よりの褒め言葉かもしれない。
「今日の様な素敵な一日、この思い出は私の一生の宝物になりました。皆さん本当に有り難う!今日の事は私、決して忘れません!!」
深くお辞儀をする澄子。
「まだまだ、これからだよ!」と千晶。
「えっ?」
「来年、永ちゃんのツアーが始まったら新しい思い出がドンドン増えるんだから!」
その言葉を聞いて麻理子も自分自身の、これまでのYAZAWAな記憶を思い出しては思わず頷く。
「これからもずっと一緒にいっぱい思い出を創ろっ!ねっ!約束!!」
千晶が小指を差し出す。
「えぇ。約束……」
澄子が小指を絡ませる。
その微笑みは何処か寂しげであった。
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