久しぶりに見る愛しい人の姿に胸が高鳴る澄子。
だが同時に、その優しさに溢れ春の毀れ日の様な穏やかな表情は高鳴る鼓動とは裏腹に、どんな時も澄子を安心させてくれた。
雄一郎が傍に居てくれるだけで護られている様な。雄一郎が居てくれたから自分はこれまで生きてこれたのだという想いが自然と込み上げてくる。
ふと、この時、澄子は千晶と初めて逢った時の言葉を思い出した。
《どうして神崎さんと結婚したんですか?何で普通のオジサンと結婚したのか》
あの時、澄子は雄一郎との出逢いを話して千晶も他の者達も興味深く聞いてくれた。
だがあの時、一つだけ千晶や皆には話さなかった事が有った。
ちょっぴり恥ずかしくて隠してしまった、もう一つの理由。
実は雄一郎は父、清高に似ていたのだ。
ブルーカラーとホワイトカラーという職業の違いは有れど外見や声、振る舞いや話し方、匂いとゆうか醸し出す雰囲気までが生写しとまではいかないが非常によく似ており出会って間も無い頃は時々、父の姿を雄一郎に重ねてしまう事も有った。
その為か当初、二人の結婚に反対していた母も一緒に生活している内に「貴女があの人を選んだ理由が解ったわ」と笑いながら言ってくれた。
ファザコンだと思われるのが恥ずかしくて黙っていた事に思い出し笑いをしてしまう澄子。
「何が可笑しいんだい?」苦笑する雄一郎。
「御免なさい。何でも有りませんわ」
照れ笑いを浮かべる澄子。
再び見詰めあう。
二人の間に出会ってから今日までの様々な出来事が走馬燈の様に流れてゆく。
長かった様な短かった様な。
やがて、その思い出に矢沢永吉の歌声が合い重なり、丸で映画の様に二人の物語に溶け込んでいく。
まるで、あの日あの時からYAZAWAの唄と共に生きてきたのかと錯覚させる程に。
すると雄一郎が口を開いた。
「澄子」
「はい」
いつ以来だろう?ちゃんと名前で呼んで貰ったのは。
暫しの沈黙。雄一郎の次の言葉を待つ。
やがて優しい眼差しで雄一郎は静かに、こう問うた。
「アー・ユー・ハッピー?」
その問いに澄子は満面の笑みを浮かべ大きく頷く。
「Yes! I’m so very very Happy!!」
迷いや未練と言った物を全く感じない澄んだその声。その表情。
それを聞いて雄一郎も満足気に頷く。
その手を かせよ 行くぜ……
澄子は立ち上がると差し出されたその手を握りしめた。
懐かしい温もり。力強く頼もしい腕に引き寄せられ熱い胸元に抱かれる。
あの日、あの時、出逢った頃の姿となった雄一郎と澄子が互いの手と手を取り合って踊る様にゆっくりと廻り出す。
やがてダイヤモンドの様に煌めく無数の光が二人を包み込むと太陽の様に眩い程の閃光を放ち、そしてゆっくりと消えていった。
ポトッ
何かがミィの額に落ちてきた。
「ンーーーッ?」
思わず目を開けるミィ。
前足で何度か円を描く様に顔を掻き、起き上がって背伸びをすると、その場で澄子の顔を見上げる。
静かに瞳を閉じた澄子の頬から流れ落ちる一筋の雫。
今度は前足にポトリと落ちる。
そのまま澄子の顔をずっと見詰め続けるミィ。
そして神崎澄子の人生という長い旅は夜明けと共に幕を閉じた。
コメント
久々にブログにコメントします!!
読んでいて泣けてきました…
優しい文面に心を打たれた反面、もの悲しい感じもして、涙が出てきました…
AKIRAさん、これ書籍化してほしいですよ(><) 第1話からずっと読んでましたが、クライマックスがいよいよ近づいてるのでしょうか? 終わるのは、ちょっと寂しいですc(>_<。)
コウジさんに同感です。
より多くの人に読まれるべき価値のある矢沢永吉をテーマにしたすんばらしい作品だと思います。
おこがましいけれど、自分と重なるような気持ちのたくさんある澄子さん。
こんな風に最後の時を迎えさせて下さって、ありがとうって思いました。
作者さんに感謝です。
コウジさん♪^^こちらではお久しぶりで
http://ameblo.jp/misato1985rocknroll/
嬉しいご感想ありがとうございます
ここは泣かせ目的の話なもんで存分に泣いて下さい(笑)
書籍化は可能であれば勿論サイコーですが自分にはノウハウが無いもんで現時点では難しいかと
この女トラもいよいよ大詰めですので願わくは最後まで御付合い願いますヨロシク
M’sさん♪^^ありがとうございます
YAZAWAファンを通して矢沢永吉の魅力を出来るだけ解り易く表現する様に心掛けております
より多くの方に読んで貰えて尚且つ永ちゃんの魅力をファンの方には再確認、ファンで無い方、また御新規さんにそれを伝える事が出来たら最高だと思ってます
Baybreezeさん♪^^いつもありがとうございます
http://ip.tosp.co.jp/i.asp?i=BayBreeze
白状しますと実は澄子とゆうキャラはBaybreezeさんをリアルにイメージしながらキャラ立てした所も有りまして予想以上にシンクロされてる様で嬉しいと同時に書いてて何だか怖くも感じました
故に、この結末をどうするべきか迷ったのですが敢えて当初の筋書通りの進行を選ばせて頂きました
Baybreezeさんはどうか素敵なままで、いつまでも元気にお過ごし下さいませ