ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆246

澄子の悲報が翌、昼過ぎに寺田護から裕司と真純に伝えられると瞬く間にそれは仲間達にも広がり夕刻を迎える頃には皆が神崎宅に集まっていた。

誰もが悪い冗談だと思わずにいられない中、その受け入れ難い残酷な現実を目の当りのすると言葉を失い暫し茫然とする以外成す術が無かった。

特に麻理子は余りのショックのせいなのか青褪めた表情で震えながら何故か自分を責め立てた。

「私のせいだ……私が………私がライヴやりたいなんて言い出したから……」
「馬鹿な事、言わないの!」
「そうよ!どうして麻理子ちゃんのせいになるの!」
「だって…だって私が……」

前日のライヴと、この件に因果関係など有る筈が無い。だが、この時の麻理子は自身の行いが澄子の死を招き入れたと思い込んでしまっていた。

「ライヴなんてやらなきゃ……来年迄待ってれば……澄子さんだって永ちゃんの…本物の永ちゃん観る事が出来たかもしれないのに……」
「麻理子ちゃん気をしっかり持ちなさい!」
「私が……私が余計な事しなければ……」

その時

「澄子さんは」

護が口を開いた。

「昨日のコンサートを、とても楽しみにしておられました」

優しい表情で続ける。

「悲しい事ですが時間の問題だったのです。実は澄子さん御自身も、もう長くは生きられないと悟ってらした様で、何より澄子さんの亡骸は、とても穏やかな表情をされてました」

この日の昼時に護は条件反射的に神崎宅へ立ち寄り呼び鈴を鳴らしても応答が無い事に「まだお休み中かな?」と思いつつも虫の知らせとでも言おうか妙な胸騒ぎを感じて合鍵を使って中へ。

書斎で澄子の姿を確認して直ぐ様119番をかけるも時、既に遅く、入れ替わりで警察がやってきては第一発見者となる護が事情を説明。

当然ながら事件性は無いとの事で、そのまま検死が行われ、その合間に兄の徹や真純、裕司に連絡を入れる。

死因は【全機能停止】

「仕事柄、何度も、こうゆう場に出くわしているが、こんな綺麗なホトケさんは初めて見た……」
「何とまぁ幸せそうな表情と言いますか、苦しまずに御臨終を迎えられたという証でしょうなぁ」

検死を行った警官とドクターの言葉が、せめてもの慰めであろうか。

実は警官はこの時、澄子の遺体を携帯で撮りたいという衝動に駆られた。勿論その様な非常識な行いは思い止まったが。


「昨日の事が無ければ果たしてあの様な最期を迎える事が出来たかどうか。ですから貴女のせい等では無く、貴女のお蔭で澄子さんは安らかに旅立つ事が出来たのだと。私はそう思いますよ」

そう言って微笑む護。

この時、麻理子は護の言葉にどれ程、救われたであろうか。だが涙を止めるまでには至らず裕司の胸に飛び込んで、そのまま大声で泣き出してしまった。

「こういう事だったの?」

眞由美が拳斗に問う。

「昨日の寺田さんの話」
「まぁ………な」

力無く頷く拳斗。

「ここ数日は、身体が思う様に動かない日も有ったそうだ」

独り言の様に小さな声。

「そう………」
「俺達に余計な心配をかけるかもしれないから黙っていて欲しいと」

澄子の体調によっては最悪、ライヴ参加は断念せざる負えないと寺田兄弟は考えていた。所が昨日を迎えると、ここ数日の不調が嘘の様に元気で驚くと同時に本番中にもしもの事が有ったらと却って不安を抱かずには居られなかった。

「蝋燭の炎は燃え尽きる時が一番大きな光を放つ。言うなれば……」
「止めて…今は…お願い………」

拳斗の言葉を遮る様に言うと眞由美はそのまま拳斗の胸に顔を埋めた。

拳斗の着ているジャケットの襟を力任せに握りしめながら下唇を噛んで声を押し殺す眞由美。その頭を拳斗が片手で抱き締める。

「澄子さんの噓つき………」

千晶が棺を前にして呟く様に言う。

「おい何、言い出すんだよ?」と永悟。
「約束したじゃない…一緒に永ちゃん観に行くって………」
「仕方ないだろっ!」

永悟が語気を荒げるも千晶の気持ちを察した里香が永悟の肩を掴んで窘める様に無言で首を振る。

しゃがみ込んで澄子の亡骸を覗き込む様に見詰める千晶。

眠っているかの様に穏やかなその表情。

「ねぇ!………起きてよ!!」

澄子の肩を乱暴に揺する。

「寝るのはまだ早いよ……お子様じゃ無いんだからさぁ…」

だが澄子は目を開けてはくれない。何も応えてもくれない。

手に伝わる澄子の身体の冷たさに、やるせない怒りにも似た感情が込み上げてくる千晶。

「一緒にタオル投げるって………指切りだってしたのに………」

千晶の瞳から止め処無く涙が溢れ出る。

「澄子さんの……………澄子さんのバカァ!!」

そのまま千晶は棺の上へ泣き崩れ、その姿が仲間達の涙をより一層誘うのであった。

この日、真純の後輩達や剛健等、YAZAWA繋がりの仲間も多く弔問に訪れ、後日、寺田兄弟の手筈で告別式が開かれ、その時は琴音やサギ高吹奏楽部から代表者が数人、それと新潟の豊も駆け付けてくれた。

また、訃報を伝え聞いたマレーシアの遥子と更にロンドンの吉岡清純も個別に花を贈ってくれた。

最後のお別れの時に千晶は自分が贈ったYAZAWAタオルをそっと澄子に掛けて出棺。

ただ葬儀が終わる頃に、例の『相続人』達が突如、乱入してきては相続権を理由に澄子の遺骨を奪おうとする暴挙に出るという騒動まで起きたが拳斗や眞由美、真純達の手でこれを強制排除。

遺骨は無事に守られ徹が預かる事になった。

つづく

コメント

  1. ぺこちゃん より:

    お昼休憩中に
    途中まで読んだら…
    涙止まらなくなりました。
    午後からの仕事が出来なくなるから
    帰宅してゆっくり読ませていただきますね。

  2. AKIRA より:

    ぺこちゃんさん♪^^毎度です
    物書き冥利に尽きるお言葉有難うございます
    これ以上泣かせる場面は無いと思うので今夜、寝る前にでもゆっくり読んで下さいヨロシク

  3. Baybreeze より:

    241を読ませて頂いた頃から、この時、この展開の覚悟は
    出来ていたつもりですが
    やはり泣きながら読んでしまいました。
    でも、「澄子の悲報」「残酷な現実」と言う言葉は、
    ちょっと違うな~と、あまりピンと来なかったのです。
    愛する人に迎えに来てもらって、可愛い愛猫ちゃんの温かさを膝に
    幸せだな~いいな~~~と、とても羨ましかったのです。
    矢沢さんの音楽と、矢沢さんを愛する仲間達と、
    美味しいビーフシチューとドンペリと…澄子さんの最後はすべてが
    極上の幸せに包まれていて、作者さんの優しさをいっぱい感じます。

  4. AKIRA より:

    Baybreezeさん♪^^いつも有難うございます
    http://ip.tosp.co.jp/i.asp?i=BayBreeze
    麻理子や千晶達の心情を表現したかったのですが如何せん自分の国語力では、これが限界と言いますか、この発想しか浮かびませんでした
    澄子が関わる物語は、もう少し続きますので出来れば最後迄御付合い下さいます様ヨロシクお願いします

  5. Baybreeze より:

    そうですね。麻理子さんや千晶達の気持ちを考えたら
    本当に悲しい報せ、残酷な現実、ですね。
    これ以外の言葉で表現することはできませんね。
    私が自分の気持ちに引き寄せて
    感じすぎてしまった感想でした。ごめんなさい。
    最後まで更新を楽しみにしています(・∇・❤ฺ)♪

  6. AKIRA より:

    Baybreezeさん♪^^毎度です
    http://ip.tosp.co.jp/i.asp?i=BayBreeze
    そこまで作品に、澄子に感情移入して頂き作者としては本当に嬉しく思います
    で、只今、次の次に掲載予定の話で訳有って完全に筆が止まってしまい更新が滞る事に成るかもしれませんが必ず最後迄書き進めますので改めてヨロシクお願いします

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