ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆254

剛健達のグループを追い払い平穏な空気を取り戻した所に里香と明夫、千晶と永悟がやってきた。

里香も今回がチャイナ・デビュー。明夫がプレゼントしてくれた濃紺で眞由美達と比べたら大人しい柄のドレスをどうにか着こなしている。

一方、千晶はいつも通りのミニスカ&ニーハイにブーツ。上はスカルと薔薇がデザインされたボートネックのロンTにライダーズ・ジャケットというロックなファッション。

メイクも愛美の手解きのお蔭で大人っぽくパッと見は女子大生と思える雰囲気。

因みに千晶は例のYAZAWAにビビる彼氏とは結局別れてしまい、永悟と共に現在はフリー。

ただ里香によれば永悟と千晶は再び良い感じに成っているそうな。

そこに今度は何と加藤豊と雨宮琴音が一緒にやってきた。

豊は今回も革ジャンに超高リーゼント。琴音は教育者らしいノーマルなパンツ・スーツ姿。

実は豊と琴音の二人は昨年のYASHIMAのライヴ打ち上げで出会ってから意気投合し後に結婚に迄至ってしまった。

尚、琴音はサギ高にて教職を続け、豊は川崎に戻って現在、予備校講師をしていた。

「このカップリングには正直、ビックリしたわよねぇ!」

真純も未だに信じられない様子。

「でも琴音さん何で、こんなの選んだの?」
「何ぃ!?」

賢治に「こんなの」と言われて憤る豊。

「豊さんは本当に優しくて素敵な人よ」

抱き合う熱々歳の差カップル。

「だけど琴音さん俺達と同い年だから有る意味、教え子に手を出した様なモンだよなぁ」と裕司。
「先生、犯罪ッスよ犯罪!」
「貴様ぁ!恩師に向かって何だその口の利き方はぁ!!」

賢治の首を絞める豊。

「セ、センセイ……俺、敏広じゃないし……」

高校時代、豊が敏広の首を絞めるのは軽音部内でのお約束、日常の光景であった。

そこに

「あの~、今晩は」
「キャーッ!寺田さん!!」

何と何と今度は寺田徹、護の兄弟が、それぞれの奥方を連れて現れた。

この二人は、いわゆる還暦ドームの時に一般発売でチケットを買ってYAZAWAデビュー。

すっかりハマってしまい今回の武道館も何とかチケットを手に入れては嫌がる妻を無理矢理連れてきたのであった。

互いの婦人を紹介してくれる徹と護。

どちらも愛想笑いは浮かべているが正直この場には居たくないというオーラが身体中から滲み出ている。

だが数十分後には、この二人もYAZAWAの洗礼を受け、年が明けると夫と共に眞由美や真純達の仲間に加わるのであった。丁度6年前の麻理子と同じ様に。

「タオルも用意して準備万端ですね!」と麻理子。

ドームの時に買ったタオルを手に照れ笑いを浮かべる寺田兄弟。

すると、車道の方で一人の人影が皇居方面から群衆の流れに逆らう様に歩いていくのが見えた。

「マスターだ!」

それはワン・ナイト・ショーのマスターであった。

「マスターッ!!」

大声で真純が呼ぶ。

声に気付いたマスターが笑顔で手を振る。

「楽しみましょうねぇ!」

麻理子の言葉に親指を立てるとマスターはそのまま関係者専用入口の方へと向かっていった。

「それにしてもマスターってホント永ちゃんに似てるわよねぇ」
「ってゆうか瓜二つじゃないですか?」

実はワン・ナイト・ショーのマスターには以前から色んな噂が有った。

マスターの正体は永ちゃんの双子の兄、或は弟。
マスターは永ちゃんのクローン乃至コピー・ロボット。
ツアー中は店を休む事からマスターは実は永ちゃん本人でツアーが無い時に道楽で店をやっている等々。

現にマスターとすれ違う者達は皆、一瞬ギョッ!とするのだが本人がこんな所に居る筈が無いと思うのか追い掛けたり握手を求める様な者は皆無であった。

そしてマスターの姿が武道館の中へと消えていくと遂に麻理子の待ち人が姿を現した。

「遥子ちゃーん!」

麻理子より先に気付いた裕司が叫ぶ。

遥子がニッコリ笑って大きく手を振る。

「みんな元気ぃ!?帰ってきたぞぉーーっ!!」

スター・イン・ヒビヤ、ヨロシク、お道化る遥子。

その遥子が辿り着くのを待ち切れない麻理子は小走りで駆け寄ると飛び付く様に遥子に抱き付いた。

「遥子、大好き
「私も麻理子が大好き」

ギュッと麻理子を抱き締める。

「レズってますなぁ」

そこに優先席の引換を終えた敏広が美由紀と共にやってきた。

「久しぶりね。御結婚おめでとう!」
「あぁ、ありがとう」

はにかむ敏広。

「オメデタと言えば美由紀ちゃん大丈夫なの!?そろそろ予定日でしょ!?」と眞由美。

その美由紀は現在、妊娠中で何と出産予定日間近であった。

「いや、俺も今回は諦めようって言ったんだけどコイツがどうしても行く!って聞かなくて…」
「いいんです!この子の胎教の為にも生の永ちゃんの唄を聴かせてあげたいんだから!」

今や美由紀も一端のYAZAWAファンであった。

「だけどお腹の子の為にも無理しちゃ駄目だぞ!」と拳斗。
「大丈夫です!もし産気づいたら私、武道館で産むつもりですから!」

美由紀の凄い決意表明に唖然とする仲間達。

「だけど、もし、それが現実に成ったら永ちゃんの長いコンサートの歴史の中でも前代未聞の珍事よねぇ」
「永ちゃんも一生、記憶に残るだろうなぁ!」
「それが狙いです!それから願わくば永ちゃんに名付け親になって貰いたいなって!」

皆が笑う。同時に、こんな冗談も言える位なら母子共に体調は良好な様だと安心する。

「それはそうと遥子ちゃん、こちらのア~ディ~オス!な~がい黒髪~の御綺麗な方はどなた?」

敏広に聞かれ

「紹介するわ。私の会社の上司なの」
「初めまして、沢崎典子と申します」

典子は手術が無事に成功し今は完全復活。

来年度には現在、遥子が担当しているマレーシアでの事業を引き継ぐ事になっており日本を発つ前に遥子の好きな永ちゃんのライヴを観てみたいとリクエストされ、今回、一緒に参戦する事となったのだ。

「ハァ~ッ!すげぇ美人さん……」
「あぁ、ホントに…………」

透明感、溢れる典子の美しさに目が釘付けになる男集。

その熱視線に照れて沈黙してしまう典子。

敏広達三羽烏だけで無く拳斗や洋助、永悟に明夫に豊、寺田兄弟までもが典子に見惚れてしまっている。

男とは、こういう生き物である。

そんな男達の態度にムッ!とする女性陣。そして

「痛でぇーーーーーーーーーーーっ!あ痛たたたたたたたたたたたたたたたたっ!!」

各自のパートナーにお尻を思い切りつねられて悶絶、絶叫する野郎共。

その悲鳴に典子は唖然とし真純はやれやれと脱力。

遥子はケラケラと愉快に笑い、そんな光景に懐かしさを感じつつ改めて日本に、仲間の元に帰ってきたのだと実感するのであった。


つづく

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