ネット小説 web小説【人権剥奪】009

やはり野々山も当初は【少年A】との生活に幾許かの不安を抱いていた。

だが実際に暮らし始めると拍子抜けする程、普段と、それほど変わらぬ生活を送る事が出来た。

素顔の【少年A】は少々、根暗に思える様な雰囲気も有るが基本的には大人しく礼儀正しかった。

自身の立場を弁えているのか、或いは少年院に居た頃のクセが抜けていないのか

「トイレに行っても宜しいでしょうか?」「そろそろ休ませて頂いて宜しいでしょうか?」

と、何をするにしても野々山の了解を得ようとしていた。

「此処は君の家なんだから何も遠慮する事は無いんだよ」

と野々山が笑うと嬉しそうな表情で深々と何度もお辞儀をする。

そんな【少年A】を見ながら野々山は改めて、何故、こんな(野々山の主観による)良い子が、あんな罪を犯したのか疑問に思うと同時に、改めて、こんな(野々山の主観による)良い子を犯罪者にしてしまう今の世の中を憎んだ。

普段の二人の生活は野々山が出勤している間、【少年A】が掃除、洗濯等を請け負っていた。

意外な事に【少年A】は家事全般が得意な様で、特に掃除は本人が清潔好きなのか徹底しており、以前よりも家の中が綺麗に成っていく事で主の野々山を喜ばせた。

また、日常生活に関しても特に制限は設けられていなかったが、外出する事を嫌って、食料、日用品等の買い物は全てネット・スーパーで済ませていた。

お金に関しても犯行以前の中学生時代から趣味のパソコンでフリーソフトを開発しては、それなりの利益を出しており貯蓄も未成年にしては潤沢で野々山の経済的負担も殆ど無いに等しかった。

それから、頭の出来も良かったので空いた時間には野々山の書斎から法律関係の専門書を借りては知識を蓄え、共同生活が1ヶ月を過ぎた頃には簡単な物であれば野々山の仕事を手伝える様になり、野々山は、行く行くは本気で自分の事務所に雇おうと思う様になっていた。

所が9月の後半を迎えた、ある日

野々山の娘、絵美里が学校の帰り道に一時帰宅してきた。

門の前に来て呼び鈴を鳴らすべきか迷ったが、本来、自分の家なんだからと思い鍵を取り出して自分で開錠。

靴を脱いで上がろうとした、その時

「誰だっ!!」

「キャッ!」

突然、男の怒鳴り声が響き驚いて硬直してしまう絵美里。

階段を降りてくる【少年A】

俗に蛇に睨まれた蛙の様な絵美里を見て

「あっ、もしかして野々山さんのお嬢さん?」


つづく

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