「ど、どうしたの!?」
帰宅した拳太を出迎えた母、慶子は息子の姿を見て驚愕した。
「…転んだ」
「転んだ位で、そんな…そんな傷だらけになる筈…」
「うるさいなぁ!」
心配で触れようとする母を肘で払う様に拒絶する拳太。
普段は口答えする様な子では無いのに、今迄、見た事無い程に苛立っている様子。
その時、拳太の鼻から血が流れ落ちた。
「!ちょ、ティ、ティッシュを…」
「大丈夫だよ!」
鼻を抑え足早に自室の有る二階へと階段を上り乱暴にドアを閉める拳太。
息子が何かトラブルに巻き込まれた事は間違いない。
それを今直ぐ電話で夫に知らせるべきか迷う。
でも龍太の性格を考えると「そんな事で一々騒ぐな!」と返されるのも容易に想像出来た。
すると着替えた拳太が「お風呂に入りたい」と言い、そのままバスルームへと向かう。
「拳太、お風呂から出たら病院に…」
「大丈夫だから!」
心配だが受け応えはしっかりしている。あまりしつこくしても怒らせるだけだと思い慶子は黙って息子が風呂から出るのを待った。
だが、普段なら烏の行水とも言える位に入浴時間が短い拳太が30分以上過ぎても上がってこない。
考え過ぎとも思ったが、どうしても気になった慶子はバスルームへと向かった。
「拳太、拳太?」
呼んでも返事がない。
「拳太、大丈夫なの?」
やはり、返事が帰ってこない。
「拳太、開けるわよ」
ドアを開く慶子。中から溢れる様に漏れ出る湯気で一瞬、何も見えなくなる。
そして中の様子を見た慶子は言葉を失った。
「!!」
そこには俯せに倒れたままピクリとも動かない拳太の姿が。
思わず駆け寄り息子を抱き寄せる慶子。
「け、け、け、け…」
「拳太!しっかりしてっ!!」と言いたくとも口が動いてくれない。
肩を揺すっても頬を叩いても何の反応も示さない拳太。
慶子は救急車の呼ぶ為、バスルームから飛び出した。