ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆192

目を覚ますと澄子は病院のベッドにて点滴を打たれていた。

周囲を見回し枕元にあるナースコールのボタンを押すとパタパタとゆう足音と共にカーテンが開く。

「あぁ、気付かれましたかぁ!」と若い看護師。
「あぁ、はい……」
「今、ご家族の方を呼んできますねーっ!」と去っていく。

数分後に先程の看護師と一緒に寺田護がやってきた。

「大丈夫、な訳ありませんよね…」
「あの……どうして私はここに?」
「廊下で倒れていたんです」
「あぁ……」

記憶を取り戻す澄子。

『相続人』達が退出した後に澄子は急激な血圧低下による貧血で意識を失ってしまった。

入れ違いで護が神崎宅を訪れ部屋の電気が点いているのに呼び鈴を押しても反応が無い事を不審に思いドアノブを手に取ると鍵が開いている。
またドア越しに、ミィが何かを訴えている様に騒いでいるのが聞こえ異変を感じて中に入り倒れている澄子を発見して護はすぐさま救急車を呼んだのだった。

「あの…ご迷惑をお掛けして……」
「そんな!」

その時、また別の足音が聞こえ一人の男が小走りで現れた。

「兄貴!」
「徹さん」
「あぁ~!ご無事な様で!」

護の兄、寺田徹も雄一郎の一周忌という事で神崎宅を訪問。だが弟の護の車がガレージにあるも家には誰も居ない様なので護の携帯に電話をかけるが繋がらず。数分後に折り返しの電話が入り澄子を搬送した救急車に便乗して現在病院に居ると聞いて慌てて駆けつけたのだ。

その後、澄子は検診を受け特に問題無いとの事で護と共に徹の送迎で帰宅。

「それじゃ我々はまた出直します」
「お茶でも飲んでいかれて!」
「とんでもない!こんな時ですから今日はもうお休み下さい」

帰る寺田兄弟を見送り家の中へ。

リビングのソファに腰掛け先程、『相続人』達を持て成した茶具を片付ける気も起きないまま項垂れる。

ここ数日、時々軽い目眩を起こす様になっていたのだが今日程激しい物は体験した事が無い。

「ミャア」

傍らに来て心配そうに見詰めてくるミィ。

「御免ねぇ。大丈夫よ」

やっと笑顔が戻る。

膝に飛び乗って丸くなったミィを撫でていると先程の事が思い出される。

真純達が財産狙いで自分に近付いている事等有り得ない。それくらいの人を見る目は持ち合わせているつもりだ。

ただ自分に、もしもの事が起こった際にはどうなるのか?

「死んじまったら、もう、どうにもならん。後の事は生きてる連中に任せる他無い。ただ、その為の準備はこっちでしておかんとな」

生前の雄一郎の言葉を思い出す。

身内の居ない自分の資産を仮に誰かに相続させるとしたら?真っ先に頭に思い浮かんだのは裕司であった。

夫の雄一郎が息子同然に可愛がっていた裕司なら自然だと思った。だがそうなった場合、裕司は絶対に放棄するだろうとも夫は言っていた。

「あいつは若いのに金は自分で稼いだ分しか身に付かないという事をよく判ってる」

その真面目な性格は澄子もよく知っていた。だからこそ雄一郎は裕司の事を気に入っていたのだろう。
では、そうなると誰に託すべきなのか?

今度は寺田兄弟の顔が浮かぶ。

澄子の知っている者達の中では最も大人で社会的地位もしっかりしている。しかも自分にとっては甥っ子の様な存在。

すると澄子は、ふと二人の父親の事を思い出した。


つづく

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