ネット小説 web小説【人権剥奪】022

救急搬送された拳太の身体を見たドクターは直ぐ警察に連絡する様、ナースに告げた。

「酷いな、これは…」

身体中の至る所に内出血の痕が浮き出ている。

一方、事態を聞いて病院に駆け付けた龍太の顔を見て手術室前のソファに座っていた慶子は思わず、その胸に飛び込み号泣した。

「なんだって、こんな事に…」

未だに何が起きたのか理解しきれていない龍太。正確には信じたくないと言った所だろうか。

ドクター達の献身的な処置も空しく拳太は死亡。その亡骸は検死解剖へと移される。

検死の結果、暴行傷害、殺人事件として警察は捜査を開始。

ただ、この時点では検死結果と被害者の母、慶子の証言位しか手掛かりとなる物が無く犯人逮捕は難航するかと思われた。

だが加害者の高校生3人は意外に早く特定出来、翌朝には、それぞれの自宅で登校前に御縄となった。

何故なら3人は犯行当日に今回の暴力行為を自慢気にSNS等に書き込んだり、犯行後に立ち寄ったファースト・フード店で、さも武勇伝の様に居合わせた同級生や後輩達に吹聴していたからだ。

個別に取り調べを受ける中、野上拳太が死亡した事を伝えると流石に3人共、顔面蒼白と成った。

その後は言い訳がましい供述に責任の擦り合い、二言目には「まさか死ぬとは思わなかった。殺すつもりなんて無かった」と殺意を否定。

しかし、初公判が開かれると、何と3人は取り調べでの供述を覆し無罪を主張しだした。

「空手に興味が有ったから教えてもらおうと思ったんです」

公園の障碍者用トイレで被害者と一緒だった事は認めるも、一度は自供した暴行行為は全て否認。

その後のSNSや吹聴等も見栄を張って嘘を吐いた、ネタのつもりだったとし、被害者が受けていた外傷には全く心当りが無いと証言しだしたのだ。

検察側は勿論、遺族である野上夫妻も、この証言を受け入れる事等、到底、出来なかった。

裁判員も同様であったが、この時点で事件の目撃者と呼べる証人は、被告人達が公衆トイレに出入りしている所を見かけた数人の通行人だけで、犯行現場が密室であった故に暴行行為その物を見た者は皆無であった。

有力な証拠が無い中、被告人の証言が虚偽である事を立証するのは困難に思われた。

所が思わぬ所で決定的とも言える証拠を検察側は手に入れる事となった。

実は犯行現場となったトイレ内には盗撮目的の超小型カメラが複数、仕掛けられていたのだ。

それによって撮影された動画が、どの様な経緯で流されたのかは不明だが、各種、動画投稿サイトにて公開されると瞬く間にネット上で拡散されテレビのニュースでも取り上げられる程の話題となった。

検察側は当然、この動画を証拠として採用。

これに弁護側は「盗撮の様な違法行為によって手に入れた物は証拠に成らない!」と主張するも

「今回、御覧になって頂く映像は既にインターネット上で公開されている物で我々、検察側が違法に入手した物では有りません」と説明。

裁判員も、これを支持し裁判長も「真実を追求する為には、どんな些細な事でも確かめておく必要が有る」と弁護側の意見を退けた。

法廷にセッティングされたスクリーンにその映像が流される。

それは被告の証言を覆すには充分な代物であった。

つづく

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