サギ高吹奏楽部とのコラボが実現した事によって土曜日は、いつも通り溝の口の音楽スタジオでYASHIMAだけの練習。
日曜日はサギ高の音楽室にてフル・バンドでの音合わせが行われ、生のホーンが加わる事による心地良い音の厚みがより一層、敏広達の集中力を高め、また部員達も上手い大人のバンドと一緒にセッションする事が刺激的な様で知らず知らずに熱の篭ったサウンドを出しているレギュラー部員達に顧問の琴音も驚いていた。
中でも今回のコラボを一番喜んだのはキーボードの加奈子でホーンのパートをシンセで再現する必要が無くなった事で負担が減り、代わりに本来のパートに集中出来るので他のメンバーは勿論、部員や琴音も舌を巻く程に凄い演奏を練習中から披露していた。
そこに
「お疲れ様!」
真純が後輩を連れ沢山の差し入れを持って陣中見舞いに来てくれた。
「頑張ってる様ね」
「彼等がいい音、出してくれるもんだから、こっちも気ぃ抜けませんよ!」と笑う敏広。
「何よりじゃない。それでセトリは固まった?」
「一応あの通りに」と賢治が黒板を指差す。
剥がしたカレンダーの裏面にマジックでセトリを書き込んだ物が3つ程マグネットで貼り付けてある。
今回のライヴは予想外に大規模な物になってしまったが本来の目的は澄子の為。
日程的にも澄子の誕生日と重なったので澄子のバースデー・ライヴという主旨でセトリも矢沢永吉の魅力を澄子に伝えたいのと同時に澄子が好んでくれそうな曲をセレクトするつもりであった。
だが、この澄子が好んでくれそうな曲というのが難しく、メンバーは頭を痛め結局は雄一郎が生前、好きだった曲をベースに構成。
また高齢である澄子の肉体的負担や疲労度も考慮に入れ、プランAとプランB、二つのパターンを設けた。
因みに吹奏楽部はYAZAWAの楽曲専門で活動してる訳では無いので演奏出来る曲も限られてる為に場合によってはアンコールのみの出演という事で話は纏まった。
真純はプランAのセトリを見ながら
「何だか、神崎さんの事を思い出しちゃうわねぇ………」
と、思わず涙ぐんでしまっていた。目尻を拭いつつ
「私も益々、楽しみになってきたわ!アンタ達の演奏は本当にお世辞抜きで他のYAZAWA系バンドより抜きん出てるから」
「恐れ入ります!」
「ナオミ!アンタにも感謝しなくちゃねぇ!アンタがあの日、文化祭に呼んでくれなかったら彼等と逢う事も無かったでしょうから」
と一緒に訪れた後輩の肩をポンと叩く。
「いえ!とんでもないです!」
このナオミの年の離れた妹が実は鷺沼平高校の演劇部員で敏広達の同級生であった。
「あぁ!池山さんのお姉さんなんですか?」
殆ど面識は無かったが同級生という事も有って敏広達もナオミの妹、池山碧の事は心当たりがあった。
妹想いのナオミは当時、碧の晴れ舞台を友人達に宣伝しまくっており、それを伝え聞いた真純が自ら「私もお邪魔していい?」と申し出てきた。
恐縮しつつも大喜びで真純を招待するナオミ。だが演劇部の舞台は日曜日の午前からだったのだが土曜日と間違えて皆に伝えてしまった。
当日ナオミは真純と集まった友人達に平謝りで詫びるも真純は「折角、来たんだから楽しみましょう」と笑顔で体育館へ。
軽音楽部のライヴという事で興味が湧いたが、その時、出演していたバンドのヘタクソな演奏にゲンナリして他の催しを観る為に校内を散策。
その後、ランチの為に一度、校外へと向かおうとすると先程の体育館から聞き覚えのある曲が流れてきた。
ランチに向かうのを止め、中に入ると高校生3人が♪レイニー・ウェイを見事に演奏しているのを観て真純は驚き、そのまま最後まで観続け、更に翌日も改めてナオミの妹の舞台を観る為に来校。それから後夜祭まで楽しみ現在に至るのであった。
そして、その日の夜、ナオミから今回のライヴの件が妹の碧に伝わり、それが他の同級生に広がるまで、それ程、時間は掛からなかった。
コメント