澄子の突然の号泣に言葉を失う仲間達。
何人かは始め澄子が多くのお誘いが嬉しくて泣いているのかと思ったが、その様子はとても嬉しそうには見えなかった。
「御免なさい……私………」
尚も泣き続ける澄子。暫く重く切ない沈黙が続く。
「本当に御免なさい。眞由美さんのお誕生会の日にこんな……」
「いえ、とんでもないです……」
眞由美も言葉が他に見つからない。
「あの………よかったら、話して頂けませんか?」と拳斗。
「……………はい」
皆、澄子が泣き止むまで口を噤む。
「皆さん、本当にありがとう!私なんかの為に、こんなにも多くのお誘いをして下さるなんて………」
ハンドバッグからハンカチを取り出し目頭を抑える。
「でも………私には皆様のお誘いを受ける資格は有りません…」
「えぇっ?」
「どういう事ですか?」
「………主人が生きていた時、一度だけ矢沢さんのコンサートに行く機会が有ったのだけれど…」
2001年の『Z』の時である。
「あの時、体調崩されたんでしたっけ」
「あぁ!それで遥子ちゃん誘ったんだったな!」
「でもね……あれ………実は仮病だったの」
その頃、夫、雄一郎は澄子にも武道館に来る様、熱心に誘っていた。
澄子は雄一郎が矢沢永吉に夢中になる事には全く異論も不満も無かった。
だがコンサートは勿論、増してロックのそれという全く未知の世界に自身が足を踏み入れる事には、かなりの抵抗が有った。
そして半ば強引に連れて行かれそうになった2001年12月
気分が悪くなったのは事実なのだが、その原因は武道館へと赴く事に対する拒否反応であった事は自分でもよく判っていた。
事実、それを理由にコンサート参加を断り残念そうな雄一郎を送り出すと途端に身も心も楽になった。
それから6年後の昨年、あの時とは反対に武道館に参戦する事を心待ちにしていると今度は本当に体調を崩してしまった。
しかも生死をさまよう程に。
「やっぱり嘘はいけないのね……きっと罰が当たったんだわ…………」
再び泣き出してしまう澄子。
そして4ヶ月前
「あの時、ギブソンさんの仰ってた言葉、お叱りを受けている様に思えました。私は過去に自分の都合で皆さんの大好きな矢沢さんのコンサート・チケットを無駄にしてしまった………」
そしてこの年。活動休止という事で澄子は神様が自分に更に罰を与えている様に思えてならなかったのだった。
「やっぱり私には……ギブソンさんの仰る通り……矢沢さんのコンサートに行く資格は無いのです…」
啜り泣く澄子。また沈黙が訪れる。
「あの……気にする事、無いと思います!」
今度は麻理子が沈黙を破った。
「お気持ち凄く判ります!私も親友の遥子から誘われて始めは何て所に連れてこられたんだろうと。正直、帰りたいと思いました!」
「俺達も似た様なモンだったよな」と敏広。
それを聞いて頷く賢治と裕司。
「それに…その時のチケットだったら無駄にはなってないですよ」
「ギブさんだってそんなつもりで言ったんじゃないと思うし……ただ機会に恵まれなかっただけじゃないですか」
「そうだよっ!」と千晶。
「澄子さんに資格が無いなら私だって同じだよ!私、今だって別に永ちゃんファンって訳じゃ無いんだから!」
以前、自分でも言っていたが千晶は矢沢永吉のファンとゆうよりは多くのYAZAWAファンとそれが織り成す会場の雰囲気がたまらなく好きなのであった。
「今年は駄目でも来年があるジャン!来年、一緒に行こうよ!私達、資格の無い者同士でさっ!」
「………ありがとう。千晶ちゃん」
「今度こそ約束ね!」
「えぇ。でも……来年まで、私が生きていられればいいのだけれど…」
「な、何でそうゆう事言うのぉ!?」
泣き顔になる千晶。
この場に居る誰もが澄子の言葉を流す事が出来ず重く受け止めてしまった。
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