ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆178

雄一郎の四十九日から二ヶ月後のよく晴れた日、真純の運転するシーマが神崎宅の前に止まる。

エンジンを止め運転席から降りドアを閉じるのとほぼ同時に玄関から澄子が出てきた。

「こんにちは!」

お互い笑顔で挨拶を交わす真純と澄子。

直後に一台の黒いワゴンRが訪れた。

「お疲れ様です!こんにちは!」

2人の女が出てきて直立不動で真純と澄子交互にお辞儀をする。

「ご苦労さま」と真純。

「はい!」

この2人は神崎宅の近くに住んでいる真純の後輩であった。

「それじゃ今日も留守番、頼んだわよ」
「行ってらっしゃいませ!」
「いつも済みません」と澄子が申し訳なさそうに頭を下げる。
「いえいえとんでもないです!お気を付けて!」

2人の女に見送られ走り出すシーマ。

例の四十九日の翌日から真純の神崎宅通いが始まり今では一緒にランチを楽しむ間柄にまで親しくなっていた二人。
そしてこの日も真純が鎌倉にある馴染みのイタリアンへと澄子を誘い大人の女の食事を楽しんだ。

帰り際にチーズケーキで有名なお店に寄り3時過ぎにシーマが戻ると

「お帰りなさいませ!」
「何か変わった事は有った?」
「いえ、何も」
「最近は変な奴等も来ないので逆に退屈です」

その言葉に笑う真純。

以前、例の相続人の一人と思われる男が留守の合間に中に忍び込もうとした所をこの2人が排除した事があった。

「よかったわ。それじゃ今日はもう帰っていいわよ」
「失礼します!」

だが、その時

「あっ、待って!」

澄子が2人を止めた。

「お急ぎで無かったら美味しいチーズケーキ買ってきたから一緒に食べましょ!」
「えっ、いいんですかぁ?」

澄子の言葉に2人の女は子供の様に表情を緩ませた。

そしてリビングにてアフタヌーンティーと洒落込む澄子達。

「えっと、ミカさんとユキさんだったわねぇ」
「はい!」
「いつも本当にありがとう!」
「いえいえ!こちらこそお役に立てて光栄です!」

真純が此処に繁盛に来る様になってからこの2人が時に門番、時に留守番をしてくれる様になり、そのお陰なのか以来、例の『相続人』達と接触する事が無くなったので澄子の精神的ストレスはかなり軽減された。

「所で、お二人は真純さんとは長いお付き合いなのかしら?」

思えば澄子がミカとユキの2人とゆっくり話をするのはこの時が初めてであった。

「はい!高校時代の先輩で真純さんは私達の憧れだったんです!」
「そう」
「大袈裟よ」
「いえ!あの頃、私等の年代は皆、真純さんに憧れて御手本にしてました!」
「まぁ!真純さんって凄い方なのね。もしかして良家のお家柄?」
「そんなんじゃ有りません」と苦笑する真純。
「でも真純さんはマジ凄いんですよぉ!川崎では知らぬ者は居ない位有名な方なんですから!」とミカ。
「あら、そうなの?」ミカの話に興味津々になる澄子。

その時
「ちょっと止め…」とユキが小声でミカを静止しようとするもミカは御構い無しに話を続ける。

「そうなんですよ!何てったてあの『歪虜怒王』の初代総…」

この時、真純がミカをキッと睨んだ。

「!!」

その『ハマのメドゥーサ』に匹敵する程に恐ろしい視線に凍り付くミカ。

「わ、……ワイルド?」怪訝な顔をする澄子。

「い、い、いえ何でもありません!」慌てふためくユキ。片手で手を振りながら反対の肘で固まってるミカを数回突っ突く。

「あっ、それじゃ私達はそろそろ……」
「えっ、もう?」
「はい!お邪魔しました!…あぁ!ケーキご馳走様でした!」

逃げる様に立ち去るミカとユキ。

「どうされたのかしら?」
「済みません騒々しい後輩呼んじゃって」
「いえ、いいんだけど……」

次回から神崎宅には違う女が二人、留守番役に来る様になった。

つづく

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