ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆216

翌、日曜日

YASHIMAのメンバーと麻理子は、都合で帰った哲也を除く5人で賢治のオデッセイに乗り真純が指定した場所へと向かった。

「変わらないもんだなぁ」

真純が指定した場所とは何と敏広達の母校、鷺沼平高校であった。

敏広達3人が此処を訪れるのは自分達が卒業した翌年の文化祭。1年後輩の軽音部員のライヴを観に来た時以来。

来賓用の駐車場にて真純と落ち合い一緒に校内へ。

音楽室に向かうとブラスバンドの練習音が聴こえてくる。

「お、おいおい!これって」
「Ha~Haだよなっ!」

敏広達の言葉に微笑みを浮かべつつドアを開ける真純。

「こんにちは!」
「ようこそ!お待ちしてました!」

練習がピタリと止み教壇の上に居た女性が駆け寄ってくる。

「こちら、私の知人の娘さんで雨宮琴音さん」
「初めまして。雨宮と申します」

丁寧にお辞儀する琴音。すると

「こ、コットン!?」加奈子が声を上げる。
「!、マナカナじゃない!久し振りぃ~!」

笑顔で両手を握り合う加奈子と琴音。

「あら!二人共、顔見知り!?」
「音大の同期です!」
「世の中、狭いわねぇ!」

コットンこと雨宮琴音は真純の母、小夜子が可愛がっていた後輩芸妓の娘で都内の音楽大学卒業後に音楽教師になり、後に鷺沼平高校に赴任。現在は同校吹奏楽部の顧問をしていた。

因みに加奈子は旧姓が『真辺まなべ』な為に大学ではマナカナと呼ばれていた。

一通りの自己紹介と挨拶を終え

「お噂は予々。伝説のOBとお逢い出来て光栄ですわ」と琴音。
「いえいえ!それ程でも有りますけど!」と敏広がいつもの調子でオチャラケる。
「YASHIMAの皆さんは今でも我が校では語り草になってるんですよ」

YASHIMAが例の文化祭を大成功させた事によって鷺沼平高校は軽音部だけで無く他の文化部も相乗効果で活性化し運動部は総じて弱いが文化系はレベルが高いという事で志望校に選ぶ中学生が激増。

それに伴い偏差値も上がり地域でも活気溢れる高校となった。

所が軽音楽部に関しては敏広達が卒業した2年後にサギ高に赴任してきた超保守的な校長の鶴の一声で当時、部員が少なかった吹奏楽部と統合。事実上の廃部に追い込まれてしまい当時の部員と顧問で敏広達の最初のYAZAWA仲間でもあった加藤豊が猛反発。

同じ様に「軽音入りたくてサギ高に来たのに部が無いなんて、それこそ詐欺じゃないか!」と訴える新入生も多く退学覚悟のストを起こす生徒まで現れ「退学だけは駄目だ!俺が校長に直談判する!」と豊が嗜めるも力及ばず、そして、この事が原因で14人もの他校編入希望者、1人の自主退学者が出てしまい豊も教員を辞職。

結果的に、これらの事件が却ってYASHIMAの存在感を強める事となり、またサギ高軽音部の精神でもあったYAZAWA魂は現在、吹奏楽部にしっかりと受け継がれていた。

「YAZAWA魂が忘れられてないってぇのは嬉しいねぇ!」

壁に掲げてある額縁を見て感慨深くなる敏広達3人。

中には『YAZAWA魂』と大きく筆で書かれた色紙が入っている。

そして、その文字の対角線状にバンド名であるYASHIMAの文字と敏広、賢治、裕司のサインが。

実は、これは3人が卒業の時に「何かメッセージを残していって下さい!」と後輩達からせがまれ書いた物であった。

部長になってから敏広は常々「お前等、永ちゃんの曲は聴かなくてもやらなくても知らなくてもいいがYAZAWA魂は忘れるな!」と後輩達に言い続けていた。

「永ちゃんは私を含め部員の殆ども結構好きなんですよ。コンサートには行った事無いんですけど」

こういう人は意外に多い。

「ところで情事さん、つまりは、そういう事ですか?」
「そうよ。彼等をバックにやってみない?」
「私の方からもお願いします」と琴音。

事の次第は数日前に真純と琴音がお互いの母と共に4人で会食をした際に今回のライヴの件が話題に上り、それを聞いた琴音がコラボを申し出たのだった。

「部員の中からも寄りすぐりのメンバーを選びましたので決して御迷惑にはならないと思います。でも先ずは彼等の演奏を聴いてみて頂けませんか?」

琴音に促され奥に用意された椅子席へと案内される。

結論から言えば、この吹奏楽部の演奏力は大した物でメンバー全員が真純と琴音の提案を歓迎した。

そして敏広達はオデッセイから楽器を持ってきては後輩達と共に音合わせを行い気が付けばサザエさんが終わる頃までセッションに夢中になっていた。

つづく

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