京急川崎駅からパーティー会場のあるホテルに着いた所で里香は携帯を取り出した。
エントランス前には4台のタクシーが待機していたので今直ぐ永悟達を向えに行く事が可能である。
やじうま根性が湧いてしまい里香は自分の方から永悟に電話を掛けてみた。
4コール目の途中で繋がる。
「もしも…」
「もしもし永悟?千晶ちゃんとの用事は済んだかしら?」
始めに永悟の声が聞こえたが返答が無い。
「もしもし?」
電話が切れたのだろうか?或いは電波の状態が悪いのか?だが何か風を切る様な雑音が聞こえる。
「もしもし?」
「・・・・・・・ウドの大木!」
誰かの叫び声の様な文句が微かに聞こえた。
「?・・・もしもし永・・・」
「千晶!」
「……永悟?」
「千晶を放せ!」
「? ? ?」
「千晶を放せ!!」
「永悟、逃げて!逃げてぇ!!」
「!」
微かだが確かに千晶の声で逃げて、と聞こえた。
里香は真っ青になりガタガタと震えだした。
「放せ放せうるせぇんだよ!オウムか!!」
「永悟ぉ!」
「うるせぇ!」
猿轡に使っていたタオルが緩んで外れたのでまた締め直される。
「んーーっ、んーーーっ」
抵抗する千晶。だが玩具の手錠で後手に嵌められている為に思うように体が動かない。
「何でこんな事をするんだ!」
「うるせぇ!全部お前のせいだ!!」
「俺が何をしたって言うんだ!」
「お前の何もかもが気に入らねぇんだよ!」
無茶苦茶である。
「千晶を放せ!!」
「うるせぇ!黙らねぇとこの女もただじゃおかねぇぞ!」
「や、約束が違うじゃない!神園君が来たら私と千晶は解放してくれるって…」
「うるせぇ!!お前も痛い目みてぇのか!!」
その時、4人組の一人が、永悟が携帯電話を手に持っている事に気付いた。
「お前!電話で助けを呼ぼうったって、そうはいかねぇぞっ!」
「女がどうなってもいいのかよ!」
もう一人が続けて叫ぶと、その時、間の抜けた排気音が聞こえてきた。
1台の改造スクーターが現れグラウンド手前の駐車スペースで止まる。
「よーぉ、よーぉ。チェケラッチョ」
混乱する永悟。少なくとも今、現れた男が味方で無い事は一瞬で理解した。
こうなると頼みの綱は母、里香だけであった。
《頼む!母さん察して!》
タイミングよく電話をくれた里香に奴等に悟られない様に繋げる事が千晶を助ける為に永悟が今、出来る精一杯の行動であった。
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