「どうしよう!お姉様に嫌われちゃったぁ!」
「アンタのせいだからねっ!」
「そうよ!アタシ等まで巻き込んでどうしてくれるのよっ!」
「責任とってよね!」
「何よ!アンタ達だってあの女ムカつくって言ってたじゃん!」
「ヤッちゃおうとまで言ってないわよ!」
下級生達が醜い争いをしてる一方で麻理子の手を引きながら早歩きで進む遥子。
「あ、ありがとう」
だが遥子は返事をしない。
遥子が向かった先は体育館横にあるトイレであった。
誰も居ない事を瞬時に確認すると遥子は麻理子を個室の中に連れ込んだ。
「な、何?………!」
鍵を閉めると遥子は突然、左手で麻理子の口を抑え右手で麻理子のスカートを乱暴に捲り上げ、そのまま下着の中に手を突っ込んだ。
あまりに突然の行為に麻理子は思わず固まる。
「麻理子、少しは学習しなさい」
その時の遥子の表情は恐い位に険しかった。
「いくら下級生だからって柄の悪い輩にホイホイついて行ったらとんでもない目に遭うんだよ。ああゆう連中は加減を知らないから下手したら赤ちゃん産めない身体にされちゃうよ!」
遥子の右手に痛い程の力が籠められる。
麻理子は急に恐怖心を抱き身体を震えさせた。
他校の話だが昔、ある生徒が同級生にリンチを受け、その際に女の子の大切な箇所に電球を無理矢理挿入され中で破損。子供を産めない身体にされてしまった事が実際にあった。
「危険なのは男に限らないって事。判った?」
麻理子の瞳の奥底まで覗き込む様にジッと見詰める。
目を見開いたまま麻理子は小刻みに数回、頷いた。
遥子の表情が和らぐ。
「いい子ね」
左手で麻理子の頭を撫でながら右手を引く。
個室から出る二人。すると同時に一人の教員がトイレに入ってきた。
「あ、あなた達、何してたの?」
その教員が同じ個室から出てきた遥子達に不審な目を向ける。
「保健体育の自習でーす」と遥子。
「なっ!」絶句する教員。
麻理子は無言で赤くなる。ある意味、本当だから何も訂正出来ない。
その後、二人はいつもと変わらぬ様に談笑しながら下校した。
帰りに遥子宅にお邪魔する麻理子。遥子の家族は皆、外出中で誰も居なかった。
2階の遥子の部屋に入り、いつもの様にベッドに腰掛ける。机の横には昨日の紙袋が中身が入ったまま無造作に放置されていた。
制服から着替えながら遥子が
「麻理子さっきはゴメンね!」
「えっ?」
「チョットやり過ぎちゃった」と申し訳無さそうな遥子。
「ううん。私の方こそ心配かけてごめんなさい」
「そうよ!親友なんだから私に心配かけないで」
「うん。ありがとう。あっ、そうそう!」
麻理子は自分の鞄を開けて中からリボンの付いた箱を取り出した。
「遥子お誕生日おめでとう!」
「わぁ!ありがとう!」
本当に嬉しそうな遥子。
「ねぇ、開けてもいい?」
「うん!」
丁寧に包装を開ける遥子。
「ジギー・スターダストじゃない!」
それはデヴィッド・ボウイのドキュメント映画のビデオであった。
麻理子の家に遊びに行く度に麻理子の伯母、楓のコレクションCDを片っ端から聴かせて貰っていた遥子。
その中で遥子が当時ハマったのがデヴィッド・ボウイの通算5作目のアルバム『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』
このアルバムのコンセプトを再現した当時のライヴはロック史の伝説となっており、その模様を収録した映像は当時、入手困難であった。
そんな貴重なビデオを麻理子は遥子の為に西新宿に有るブートレグ専門のショップを見て廻り買い求めては自分でプレゼント用にデコレーションしたのであった。
「ありがとう!本当に嬉しい!」
たまらず麻理子を抱きしめる。
普通の女の子が好む様な定番アイテム等より、こういう物の方が遥子は喜んでくれるのを麻理子は親友であるが故に、よく理解していた。
「あーもう私が男だったら絶対に麻理子と付き合ってるわっ!」
暫く抱擁を続ける二人。
「私も……」
「えっ?」
「私も遥子が男の人だったら………」
遥子は二人きりの時は時々、麻理子に意地悪だった。勿論それは親しい間柄である所以だが学校や外では今日の様にいつも自分を守ってくれた。まるで騎士の様に。
「遥子が私の王子様だったらどんなに素敵かなぁって……」
抱擁を解き見詰め合う二人。ちょっと百合な雰囲気になる。
「い、いやだ私!何言ってるんだろう……」
真っ赤になって俯く麻理子。
基本ノーマルな二人。
遥子も途端に恥かしくなり二人してして沈黙してしまった。
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