ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆004

開演20分前の武道館内部は今の季節を忘れそうになる程の熱気に溢れていた。
あちこちから聞こえてくる永ちゃんコールがまた更に温度を上げてる様にも思える。

2階席南西部G列の南寄りの端に腰掛けた麻理子は辺りを見回しながら高校時代の頃を思い出していた。

実は麻理子が日本武道館を訪れるのは1995年のビリー・ジョエルのコンサート以来、今回が2度目。

その時も遥子が一緒であった。

「あの時と全然、雰囲気が違うでしょ」

遥子の言葉に麻理子は我に帰る。

「う、うん」

何故だか遥子には昔から、いつも自分が今、何を考えてるのか気付かれてしまう。

「あの時は麻理子に連れてきてもらったんだよね」
「えっ?やだ、違うわよ。連れてきてくれたのは遥子でしょ?チケットだって遥子が取ってきてくれたんだし」
「でもビリーを私に教えてくれたのは麻理子だよ」
「それはそうだけど……」
「それがあったから今、私はここにいるの」
「?、どういう意味?」
「麻理子がビリーを教えてくれたから私はロックに目覚めたの。そして永ちゃんの歌に出会って色んな人達に巡り合う事が出来た。麻理子に出会ってなかったら今の私は無かったわ」
「?、?、ちょっと大袈裟じゃない?」

どこか禅問答の様な遥子の言葉に困惑する麻理子。

「麻理子も今に判るわ。永ちゃんの唄が…」

と、その時

「遥子ちゃん!」

一人の女性が目の前の通路から声をかけてきた。

「あ、眞由美さん!こんばんは」

《わぁ、カッコイイ女性ひと

眞由美と呼ばれるその女性に麻理子は一瞬、見惚れた。

女性でいながら真っ白なメンズスーツを着こなし長いカッパーレッドの髪を後ろに束ね前髪はリーゼント風に上げてある。

髪の長さと声、そして尖った胸の膨らみが無ければ凛々しい美男子に思える様な容姿。またピアス、ネックレス等のアクセも上品に身に着けている。

そして、その傍らには背の高い男がボディガードの様に立っていた。

「若林さんもお久しぶりです」

若林と呼ばれる男は無言で遥子に微笑みながら軽く手を上げた。

「で、こちらはお友達?」

眞由美の興味が麻理子に向けられる。

「はい。高校の頃からの親友なんです」
「は、初めまして。山本麻理子です」

また、さっきの様に慌ててお辞儀をする麻理子。

「あら可愛い♡」

眞由美の顔が綻ぶ。

「朝倉眞由美です。ヨロシクね」

優しい笑みを浮かべ眞由美は麻理子に手を差し出した。

「は、はい。こちらこそ」

慌ながら麻理子は眞由美の手を握る。

「これは私の相方よ」
「若林拳斗です」

低く通る声が響く。その体格はダークブラウンのスーツの外からでも相当に鍛え上げられてるのが判る。

「永ちゃんのコンサートは初めて?」と眞由美。
「は、はい」
「盛り上がりましょうね。きっと貴女も永ちゃんに惚れちゃうわよ。あ、そうそう」

眞由美はハンドバッグを開け小さなケースを取り出した。

「今度、遥子ちゃんと一緒に遊びに来てね」

眞由美はケースの中から名刺を1枚、取り出し麻理子に渡した。
麻理子はそれを両手で丁寧に受け取る。
麻理子が初めて貰った『YAZAWAな名刺』であった。


つづく

コメント

  1. 大阪の永ちゃん狂い より:

    麻理子が初めて貰った『YAZAWAな名刺』であった。
    う~ん、自分も初めて『YAZAWAな名刺』を貰った時の事を思い出すなぁ
    武道館では自分も『YAZAWAな名刺』交換をしましたけど
    ますます麻理子の今後が楽しみですわ
    武道館お疲れさまでした、ほんまに永ちゃんは最高でんな
    続きも楽しみにしとります、ヨロシク

  2. AKIRA より:

    大阪の永ちゃん狂いさん♪^^
    嬉しい御感想、本当にありがとうございます
    読んで下さる方の思い出に触れる事が出来たなら
    書く側としては非常にやり甲斐を感じます
    現在038まで書き上げておりまして
    新キャラも続々と出てきますんで
    麻理子共々ヨロシクお願いします

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