第四章:YOKO
或る日、久し振りに実家に戻った遥子は自室で幼稚園の卒業アルバムを本棚から引っ張り出し机の上に広げていた。
先ず始めに自分のクラスの集合写真から遥子は過去の自分を探して目を止める。
「チビクロかぁ」と苦笑する遥子。
今でこそ才色兼備の見本の様な遥子だが、この頃はお世辞にも可愛いとは言えない容姿であった。
他の園児達よりも成長が著しく遅く不健康な浅黒い肌のせいで意地悪な男子から付けられたあだ名が『チビクロ』
故に幼稚園ではいつも苛められ友達も居なく、また幼い頃から美少女だった二人の姉と比較され「お姉さんはあんな可愛いのにねぇ」という一部の大人達の心無い言葉も当時の遥子を傷付けていた。
「嫌だ嫌だ!幼稚園なんて行きたくない!」
「ワガママ言うんじゃないの!」
「そうよ!お姉ちゃん達だって遥子のお歳の頃には通ったの」
この頃は遥子とその家族にとって毎朝が試練であった。
可哀想だが甘やかす訳にも行かない。母と姉は遥子を想うが故に心を鬼にして接した。
別のページを開く遥子。
目的のページは何度も開かれている為にクセになっていて簡単に開いてしまう。
そのクラスの中から遥子は簡単に目当ての児童を見付けた。
「私の天使………」
当時に思いを寄せる遥子。
人生で一番辛かった幼稚園時代。あの日あの時が無ければ自分は今日まで生きて来れなかったかもと本気で思う。
卒園を一ヶ月後に控えたある朝。
寒空の中でも、お庭で元気に遊ぶ園児達を他所に遥子は隠れる様に教室の隅っこに佇んでいた。
いつもなら、このまま時間が経つのを待っていればよかったのだが
「遥子ちゃん、こんな所で何やってるの?」
この日は先生に見付けられてしまった。
「駄目でしょ。みんなと遊んでらっしゃい」
強引に遥子の手を引き外に連れ出される。
「ほら早く!」
背中を押される遥子。だが前に進めない。行きたくない。
お庭に出ても一緒に遊んでくれるお友達も居ない。行けば意地悪な男子に苛められるだけ。
「言う事、聞かないと怒るわよ」
その怖い表情に遥子は泣きそうになる。
先生からすれば良かれと思ってやったのだろう。だがこの時の遥子にとっては冷たい仕打ちでしか無かった。
恐怖心のせいで逃げる様にお庭へと歩む遥子。だが行くあても無くウロウロとさまよっているその時
「あっ!」
足が縺れて正面から思い切り転んでしまった。
「あーっ!チビクロがコケた!」
「ははははは!ダッセェー!!」
離れたブランコで遊んでいた、いつもの意地悪な男子のグループにからかわれ馬鹿にされる。
遥子は倒れたまま泣いた。
《嫌い!先生もあの子達も!パパもママもお姉ちゃんも、みんな大嫌い!!》
遥子は自分をこんな辛い目に遭わせる周囲の者達を怨んだ。だがその時
「大丈夫?」
誰かが遥子に声をかけてきた。
《えっ?》
驚く遥子。少なくとも幼稚園でこんな風に優しく声を掛けて貰ったのは初めての経験であった。
声の方に顔を向けると遥子は我が目を疑った。
《………天使!?》
それが遥子と麻理子の一番最初の出会いであった。
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