「ありゃ医者でも草津の湯でも治らないって奴だな」
「神崎さんもそう思いますか?」
敏広の問いに頷く雄一郎。
9月5日。東京国際フォーラムのロビーにてクラⅡ終了後、飲みに行くのを断って先に帰るとゆう裕司の背中を眺めつつ出た言葉である。
裕司の麻理子に対する気持ちはこの頃には皆にバレバレであった。
何をするにも何処か上の空。
今日のコンサートも余り集中出来ていなかった様だ。
その一方で麻理子のまの字を聞いただけで過剰に反応し途端に落ち着かなくなる。
「二十代半ばで恋煩いってか」
「でも何か可愛いわね」
賢治の呟きに嫁の加奈子が笑う。
「ったく、さっさと想いを伝えちまえばいいのになぁ!」
「裕司の場合、お前みたいには行かんだろ」
「そうね。でも正しいよ」
「だろ?」
「敏広君の場合は無節操なだけだけどね」
「うるせぇ!夫婦揃って同じ事、言うな!」
その時
「くっつけちゃおっか。あの二人」
背後から突然聞こえた声の方に顔を向ける敏広達。遥子であった。
因みにこの日、遥子は眞由美と参戦。その眞由美は地方から来た昔ながらの仲間と少し離れた場所で談笑中であった。
「でもどうやって?」と賢治。
「その前に麻理子ちゃんは裕司君の事、どう思ってるのかな?」
「悪い印象は無いと思う。むしろ好印象じゃないかな」
加奈子の当然とも言える疑問に答える遥子。
同時に遥子は一昨日の夜の麻理子の呟きを思い出していた。
「しょうがねぇ。不器用なアイツの為に人肌脱ぐか!」と敏広。
「俺も乗った」
「私も手伝うわ」
「ワシの様なジジィはこうゆう事には役立たずだろうから静観させて貰うよ」
「そんな事ありませんけど、ここは私達にお任せ下さい」と遥子が笑う。
「あいつはワシの倅みたいなもんだからね。遥子ちゃんヨロシク頼むよ」
「すべては裕司君次第ですけど全力は尽します」
こうして遥子と裕司の仲間達による恋の企みが始まった。
つづく
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