拳斗と永悟の会話は先ずは取り留めの無い雑談から始められた。
その流れで永悟が話し易い雰囲気を作っていく。
最終的には永悟の悩みや本音を打ち明けて貰うのが目的なのだが意外な程に永悟は早い段階で自分の素直な感情を拳斗にさらけ出し始めた。
母親には話せない様な事も男同士なら打ち明けやすいだろうと思った眞由美の狙い通りであった。
「僕は何もしていません。なのにアイツ等はいつも僕に絡んできて………」
「因縁を付ける方には理由なんか要らないのさ。気に入らない事があれば何かに八つ当たりをして憂さを晴らす。幼稚なんだ」
「でも何で僕ばっかり…」
「一度でも歯向かった事はあるか?」
「………いえ」
「だからさ。そうゆう奴等にとって無抵抗な人間は絶好のカモなんだよ」
「……………」
「最も効果的な解決方法は一人残らずブチのめす事だ。自分より強い者に因縁を付ける奴は居ないからな」
「だけど僕は争い事が嫌で…」
「良い心掛けだ。そう思うんなら逃げればいいじゃないか」
「えっ?」
意外な言葉に驚く永悟。
「逃げるが勝ちと言うだろ」
「で、でもそれって……」
「カッコ悪いか?」
「いや、いいのかなって……」
「何故そう思う?」
「それは……やっぱり逃げるのは卑怯って言うか、情けないって言うか………」
「ライオンだって嵐が来たら逃げるし隠れるだろう。永ちゃんだって何百人もの女に追い駆けられたら流石に逃げると思うぞ」
拳斗の冗談に永悟も思わず笑みを漏らす。
「それに逃げたって戦う事は可能だぞ」
「え?」
「陸上部ならその足は凄い武器になる」
「どうやって?」
「実は俺も中学、高校と陸上部でな」
「へぇ~意外」と、ここで愛美が初めて口を開く。
「最も俺の場合は体力作りが目的で競技に出た事は一度も無いんだがな」
そう前置きして
「高校の頃に20人相手に喧嘩した事があってな。その時に陸上部で鍛えた体力が大いに役に立った」
無言だが興味津々だとゆう表情が顔に表れる永悟。争い事が嫌と言っても、やっぱり男の子である。
その拳斗の経験談を聞いてる内に永悟の表情が少しずつ明るくなっていった。
「それなら僕にも出来ます!」
「要はここを使えばいいのさ」と言って頭を指差す拳斗。
虐められっ子が虐められ続けるのには幾つか理由があるが多くの場合は虐められる側が戦い方を知らない為だ。
だが何か一つヒントを与える事によって虐められっ子本人に戦う覚悟が出来る場合もある。
「盛り上がってるわね」
少し酔いの廻った眞由美が乱入してきた。
「そろそろ私も混ぜて。ガールズ・トークに飽きちゃって」
「ガールってママ……」
「うるさいわね!」
拳斗と永悟が男の語らいをしている最中、隣のテーブルでは華々しくウィメンズ・トークが展開されていた。
皆、大人の女性であるが故の赤裸々な会話が交わされ時に、かなり際どい話題も挙がり麻理子が赤面してしまう場面もあった。
で、本来、自分から友達を作る事に慣れていない里香の為に矢沢な仲間を紹介してあげる事がもう一つの主な目的だったのだが、その日の里香はアルコールの力も手伝ってか自分の方から初対面の真純達とも積極的に会話をしていた。
これが里香の本来の姿なのだろうと思うと同時に今日の試みが予想以上に上手く行ってる事に眞由美は満足していた。
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