拳斗が呼んだ修理屋を待ってる間、キャロルとYAZAWAの話題で盛り上がる2人。
30分後、1台のダットサン・トラックが観音崎にやってきた。
運転席から中年の男が降りてくる。
「すみませんお手数かけます」風貌に似合わず礼儀正しい拳斗。
「いいっていいって!困った時はお互い様よ!」
気さくな雰囲気の男は荷台から工具を下ろしZ2に向う。
拳斗の予想通り原因はバッテリーの劣化であった。
「チャージしても途中でまた上がるだろう。交換しちまうのがベストだ」
荷台に戻り新しいバッテリーを持ってくる。
時間と手間は掛かったがバッテリー交換は無事終了。
キーを廻すと簡単にエンジンが掛かる。
「よかった~!ありがとうございます!」
「いい音だなぁ~!」と修理屋さん。
「あのぉ、所で…」
修理代を持ち合わせていなかった眞由美。
仕方が無いので自宅の住所と電話番号を控えて貰って後日、改めて代金を払いに行くつもりだったのだが何と拳斗がその場で払ってくれた。
「ちょっと悪いわ!そこまでして貰ったら・・・」
「いいからいいから。気にするな」
「するわよ!」
因みにこの時、修理屋さんはバッテリーの実費だけ受け取り工賃はサービスしてくれた。
「それじゃあな。気をつけて帰れよ」と言い残し走り去る拳斗。
「ねぇ、おじさん!」
眞由美は帰り支度をしている修理屋さんに駆け寄る。
「彼の住所とか判らない?」
「いや、そりゃ判らんなぁ~」
工場に戻れば顧客名簿があるので、それを見れば判るのだが流石に初対面の者にそこまで教える事は出来ない。
「せめて名前だけでも知ってたら教えて!」
「彼の名かい?拳斗だよ。若林拳斗」
「若林拳斗…若林拳斗…」
眞由美はその名を記憶に刻み込もうと呟く様に連呼した。
「彼は横浦賀高校の生徒さんだよ。学校に行けば逢えるんじゃないか」
眞由美の表情がパッと明るくなる。
「ありがとう!おじさん!!」
「それでも逢えなかったらウチに来な」
若者達の出逢いにちょっと、お節介をしてやりたくなった修理屋さんは自分の名刺の裏に拳斗の名と横浦賀高校の簡単な地図をボールペンで書いて眞由美に渡してくれた。
つづく
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