ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆174

神崎澄子はこの数週間、気が休まる日が無かった。

「それじゃ、また来ますんで前向きにお考え宜しくお願いします。決して悪い様にはしませんから!」
「ほら、ちゃんと御挨拶なさい」
「おばあちゃん、さようなら」と二人の子供。

可愛い盛りである筈のこんな子供ですら今の澄子には地獄の餓鬼の様に見えてしまう。
それも、この子達の両親である目の前に居る男女の卑しい人相が全ての原因なのは明白であった。

その卑しい男女とはいわゆる『相続人』

厳密には『相続権を主張する怪しい輩』と言った方が正確であるのだが。

神崎雄一郎、澄子夫妻には子供がおらず他に身内と呼べる者は居なかった。

雄一郎が退職の後、社宅を出て現在の住まいを購入。

半年後に見知らぬ男が現れ、いきなり養子縁組を申し出てきた。

身寄りのないお年寄りを狙って養子縁組を行い財産を丸々手に入れようと目論む不届き者である事は二人にも容易に想像出来、雄一郎がこれを撃退。

同様の手口で神崎夫妻に近づこうとする輩が他にも居たのだがここ数年は平穏な日々を過ごす事が出来ていた。

所が雄一郎が他界した1週間後に今度は雄一郎の身内を名乗る者達がほぼ日替わりで来る様になり澄子は日々その対応に追われていたのだ。

今し方、帰っていった親子4人組も「お年寄りの独り住まいは何かと危険だから私共が一緒に暮らしましょう」と同居を申し出てきたのであった。

ぐったりとソファに座り込んでしまう澄子。そんな時

「ミャア」
「あらあら、ミィちゃん!」

真っ白い短毛種のネコの姿に澄子にも笑顔が灯る。

そのミィが澄子の足に身体をスリスリと擦り付けてきた。

「あらごめんなさい!お昼ご飯まだだったわねぇ」

この家に引っ越して最初の養子縁組男が来た翌日の朝に庭に迷い込んできたオスの子猫がこのミィであった。

「みぃみぃ」と甲高い声で鳴いてたので雄一郎がミィと名付け、そのまま面倒を見る様になり子宝に恵まれなかった神崎夫妻の大切な家族で今の澄子の唯一の安らぎでもあった。

ミィを抱っこし餌の用意をしようとしたその時、ミィが突然、耳をパタパタと震わせ澄子の腕から逃げ出す様に飛び降り走って姿を隠してしまった。

澄子はまた憂鬱な気分になった。

ミィがこの様な行動に出ると次の展開が決まっていたからだ。その直後

ピンポーーーーン!

呼び鈴が鳴る。

先程とは別の『相続人』の来訪であった。

つづく

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