「帰れ帰れ!お前達にそんな権利は無い!」
「自分こそ、そんな権利無いだろ!」
「そうよ!」
「いきなりしゃしゃり出てきて何勝手な事を言ってるんだ!」
「うるさい黙れ!」
「うるさいのはそっちの方だ!」
「ちょ、ちょっと止めて…」
澄子の精神的疲労もピークに差し掛かっていたある日、例の『相続人』達が神崎宅の玄関で鉢合わせしてしまい廻りの事等お構いなしに醜い言い争いを展開していた。
近所迷惑この上ない状況の中、右往左往してしまう澄子。
その時
「静かにしないか!」
グレーのスーツを着て眼鏡をかけた男が突然現れては、その『相続人』達を一喝した。
「護さん!」と澄子。
「何だお前は!」
「私は神崎さんの代理人を務めている弁護士だ」
「あ、あんた弁護士なのか!?」
「そうだ!それがどうした!」
「な、なら話は早い!これを見てくれ!」
中年男がバッグの中から書類を出す。それは戸籍謄本であった。
「これを見てもらえば判ると思うが私が雄一郎兄さんに戸籍上も一番近い…」
「そんな事、関係無いだろ!」
「そうよ!戸籍で言ったらみんな同じじゃない!」
実はこの『相続人』達は皆、雄一郎の義母の身内であった。その義母は既に他界。だが醜い心はしっかりと受け継がれてしまっていた。
「大体あんたは兄弟で言えば一番下じゃないか!こっちの方が…」
「うるさい!そんな事は関係無い!」
「無い事はないだろ!自分の都合ばかり…」
「いい加減にしろ!!」
寺田護は間に割って入り澄子の隣にまで移動した。
「戸籍上も法律上も貴様等に神崎さんの資産を相続する権利など無い!諦めて帰りたまえ!」
「そ、そんな筈は無いだろう!」
「さぁ。入りましょう」
護は無視して澄子を家の中へと促す。
「ちょ、ちょっと待て!話はまだ終わってないぞ!」
「話す事など何もない!これ以上騒ぎを続ける気なら全員告訴するぞ!」
「こっ……」
途端に大人しくなる『相続人』達。一応、告訴の意味は理解している様だ。
ドアを閉め内鍵を掛ける護。
「あ、ありがとう。本当に」
「とんでもない」
リビングに入ると澄子はガックリと床に座り込んでしまった。
キッチンに向いグラスに水を注いで澄子に渡す護。
「あ、すみません」
受け取り一口飲む。
護は澄子が落ち着くまでそっとしておこうと無言のまま出窓で丸くなってるミィの背中を撫でていた。
ミィも普段から神崎家に出入りしている護には慣れているので無抵抗のまま寝ている。
「はぁ……」溜息を吐く澄子。
「兄貴から聞いてはいましたが酷い連中ですねぇ」
「えぇ……でも調度良い所で来て下さって助かったわ」
「今度こういう事が有ったらいつでも呼んで下さい。僕は兄貴よりは時間に融通が利きますので」
「ありがとう」
やっと少し落ち着く事が出来た澄子。
「あっ、それで今日はどんな御用で?」
「えっ?いや、今日は……」
その時
ピンポーーーーン!
「チッ!全くしつこい連中だ!」顔を顰める護。
この時、澄子は反射的にミィを見た。
そのミィは後ろ足で首の辺りを掻きながら逃げ出す様な素振りは全く見せないでいた。
「追い返してやる!」
「ま、待って!護さん」
澄子がインターホンの受話器を取る。
「はい」
「あ、裕司です」
「あらっ!」
訪れたのは雄一郎の仲間達であった。
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