「楽しかったぁ!今日も誘ってくれてありがとう!」
タクシーに乗り込んだ後も興奮冷めやらぬとゆう風な麻理子。今日に限ってはアルコールの影響も多少はあるのかもしれない。
「今日みたいな永ちゃんもまた素敵でしょ?」
「うん!最初から最後までずっと聴き惚れちゃった。それに打ち上げも凄く楽しかったし」
「あの二人の違う一面が見れたわね」
「裕司君も一緒だったら、もっと楽しかったかも!」
おや?と思う遥子。だが敢えて流した。
「そうだね」
「遥子も裕司君の歌は聴いた事無いの?」
「うん。カラオケでも彼が歌ってる所は観た事無い」
「そうなの?」
「だから歌は苦手なのかなって思ってたんだけどねぇ。ヴォーカルやってたなんて驚きだわ」
ーその頃、銀座4丁目の交差点ー
「お前やっぱり根はいい奴だよな」
「何だよ?いきなり」
「さりげなく麻理子ちゃんに裕司を売り込んでたじゃんかよ」
幼馴染で悪友であるが故に普段、裕司の事を貶す事はあっても褒める事が無い敏広が今日は珍しく裕司を持ち上げていた事に言及する賢治。
「てっきり、いつもの様に裕司を貶めて、お前が麻理子ちゃんをGETする気なのかと思ってたのにな」
にやける賢治に苦笑いの敏広。
「仲間の恋路を邪魔する程、俺だって最低じゃねぇよ」
「最低とは言わねぇが無節操だよな」
「うるせえよ」
「で?何処で飲み直すよ?」
返事が無い。
振り返ると敏広の姿が無く、いつの間にか数寄屋橋の交差点でOL風の若い2人組みに声を掛けていた。
いつもの事だが、その早業に感心半分、呆れ半分の賢治。
すると敏広は女の子と談笑しながら賢治に向って背中越しに親指を立てた。ナンパ成功の合図だ。
不覚にもニンマリとしてしまう賢治。
《加奈子スマン!これも男の付き合いだ!!》
賢治は心の中で妻の加奈子に詫びつつも左手薬指の指輪を外し愛想笑いを浮べながら敏広の方へ向った。
因みにその後はただバーに飲みに行っただけで不適切な関係までには至っていない事を賢治の名誉の為に付け加えておく。
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