その頃、野々山忠雄はタクシーで自宅へと向かっていた。
先程、妻から「絵美里から家に行くとメールが来たので、心配だから家で待っててやって欲しい」と電話が来たのだ。
まだ仕事中である事を理由に断ろうとしたら偉い剣幕で叱責されたので仕方なく事務所を抜け出したのだった。
忙しい中、予想外の時間的ロスに苛立ちも覚えたが、久しぶりに娘に逢えると思うと正直、嬉しくも有った。
タクシーを降りて玄関へと向かう。
ポケットから鍵を取り出そうとしたがドアが半開きの状態だった。
「ただいまーっ」
気にせず中へと入る忠雄。
絵美里の靴が視界に入り笑みが零れる。
「おーい!絵美里!」
声をかけるが家の中からは何の反応も無い。
「……出かけたのか?」
一瞬、そう思ったが玄関に靴が有り、施錠もしていないのだから、それは有り得ない。
「絵美里ーっ!パパだよーっ!」
やはり何の返答も帰ってこない。
この時、忠雄は娘、絵美里の事で頭が一杯で同居人である【少年A】の事に全く気が廻らなかった。
ダイニング・ルームへと向かう忠雄。
だが、そこに絵美里の姿は無い。
今度はリビングへ。
するとテーブルの上には2人分のグラスとプレートが。
忠雄は、この時になって、ようやく【少年A】の存在を思い出した。
同時に、妙な胸騒ぎを憶えながら絵美里の部屋が有る二階へと向かう。
上がると絵美里の部屋のドアが開いていた。
「絵美里?」
部屋の中へと入る。すると
「!!」
忠雄は我が目を疑った。
「絵美里ーっ!!」
そこには変わり果てた我が娘の姿が。
駆け寄り横たわる絵美里の身体を抱き上げる忠雄。
だが娘はピクリとも動かない。
瞳孔は開き、首には何か紐の様な物を巻き付けられた様な痣。そして明らかに何者かに凌辱されたであろう痕跡が見て取れる乱れた衣服。
「絵美里!絵美里!!」
頬をパチパチと叩く。その時
「!」
何かが忠雄の首に巻き付いた。
「グッ!!・・・・ん・・・・ん・・・・」
締め上げられ悶絶する。だが咄嗟に身体を自ら前のめりに倒した。
「わぁっ!」
ドカッ!!
「グアッ!」
背後から襲ってきた何者かが逆様で壁に激突し肩から落ちる。
「ゲホッ!ゲッ!コホッ!…クッ…」
跪き咳き込む忠雄。
学生時代、柔道を少々、嗜んでいた経験が思わぬ所で役に立った。
喉を片手で抑え呼吸を落ち着かせながら野々山は襲い掛かってきた者の方へと目を向けた。
「!!」
やはり、それは同居人の【少年A】であった。
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