前座であるサギ高吹奏楽部1年生による演奏が無事に終わり20分間の休憩に入る。
第2部開演予定時間10分前になると、ようやく拳斗が客席に姿を現した。
「ねぇ、寺田さんの話って何だったの?」と眞由美。
「いや……………大した話じゃ無い」
拳斗がこういう物言いをする時は実際には逆の事が多いのを眞由美は長い付き合いで知っていた。
だが同時に、この様な場合、今は自分達が知る必要が無い事なのだというのも理解していたので気にはなったが敢えて何も聞かなかった。
「それはそうと……」
拳斗の視線が眞由美の右隣の席に座っている若い女性に向けられる。
「そちらの方は?」
「あぁ、鮫島さん、だったわよね?」
「はい。鮫島美由紀と申します」
「敏広君のフィアンセですって」
「フィ、フィアンセだぁ!?」
滅多な事では動じない拳斗も流石に驚く。
「スミがそう紹介してくれたんだけど………やっぱ、そう思うわよねぇ!」
「お嬢さん!アイツが貴女に何と言ったか知らんが、あの男の言う事を真に受けるのは止めた方がいい!」
「はい。重々承知しております」と苦笑する美由紀。
その後、美由紀と敏広達との繋がりを聞いて一応、拳斗も納得する。
そこに神園母子達が到着。
里香の彼氏である工藤明夫と永悟のカノジョも一緒で千晶は「澄子さんと一緒に観る!」と2階席へ。因みに千晶も彼氏を誘ったのだがYAZAWA系のライヴと知ってビビってしまいドタキャンされたと膨れていたそうだ。
談笑が一区切りすると
「さて………」
立ち上がり周囲を見渡す拳斗。
2階席はどういう訳か後方に人が集中しており前方は中央部を除いて殆ど空席であったが一階席は、ほぼ満席に近い状態であった。
「今日は大いに盛り上げなきゃな!」
ジャケットを脱ぐ。
「どうしちゃったのよ?随分と気合入りまくりじゃない!」
近年の矢沢永吉のコンサートでも、ここまで拳斗が熱くなる事は先ず無い。
「澄子さんにYAZAWAな雰囲気を存分に堪能して頂きたいだけさ」
その言葉を聞いて何かを感じ取った眞由美。黙って立ち上がると預かっていた黒地、赤ロゴのビーチ・タオルを拳斗の肩にそっとかける。
この時、既に1階席の至る所では幾つものグループが永ちゃんコールで盛り上がっていた。
そこに
「いくぜーーーーぃ!永ちゃん!!」
それ等全てを掻き消す様な大声で最前列の通路から客席全体を見渡し永ちゃんコールを始める拳斗。
それに合わせ眞由美、愛美、洋助に里香達も永ちゃんコールを歌いだす。
少し遅れて明夫もコールに参加。
そして、それ等に挟まれて美由紀と永悟のカノジョは、ただただ唖然としてしまっていた。
「拳斗兄ィ今日は気合入ってるなぁ!」
1階席5列目の中央部に居た剛健のテンションが一気に上がる。
「俺達も負けてらんねぇぞ!永ちゃーん!!」
剛健が叫び周囲を陣取る自分達のファミリーを焚き付けると他のグループのコールも拳斗達に合わさる様になり、そのうねりはとてつもないエネルギーを発しては会場全体の熱気を一気に沸き上がらせた。
また、Ⅰ階席の中央通路では加藤豊が永ちゃんコールでサギ高のOB、OG達を煽っている姿が異彩を放っていた。
「まるでお祭りみたいね!」
2階席最前列の中央部に座り1階席を楽しそうに眺めてる澄子。
「拳斗さんて矢沢さんのコンサートの時はいつもあんな風に賑やかになるの?」
「拳ちゃんが、あんなに盛り上がってるのって高校の時以来かも………」
真純も今現在の拳斗の姿には些か面食らっていた。
「眞由美さんも凄いわ!本当に楽しそう!」
「眞由美ちゃんはいつもあんな感じです」
その言葉に澄子はクスクス笑ってしまう。
その横で寺田兄弟は二人揃って目の前の光景に、やはり唖然としてしまっており、サギ高吹奏楽部の父兄と思われる一般客も当然ながら居心地悪そうに戸惑い、幾人かは退席。また2階席後方に集まった吉岡清純目当ての来場客の殆どは1階席で盛り上がるYAZAWAファンを見て苦笑、失笑を浮かべ、中には露骨に白眼視している者もいた。
「わぁ!盛り上がってるぅ!!」
そこに千晶が御手洗から戻ってきた。
今現在、矢沢永吉のコンサートでは開演前の永ちゃんコールは事実上禁止状態にあり、特にアリーナ席前方では永ちゃんコールを始めた途端にSPが飛んできて止めさせられてしまう。
だが、実際には、このファンによる永ちゃんコールがコンサートを盛り上げるのに一役買っているのも、また事実なのだ。
そして今、この会場には永ちゃんコールを止める物は誰も居ない。
この時、この瞬間だけに限って言えば、この会場は本家、矢沢永吉の近年のコンサートよりも遥かに盛り上がっていた。
「うぅ~っやべぇ!身体が震えてきたぜぇ!」
控え室の中にまで聞こえてくる怒濤の永ちゃんコールに緊張感が高まり堪らず武者震いを起こす敏広。
「永ちゃんもこんな感じで本番迎えるのかねぇ?」
「この比じゃないでしょ?」
「やばい!俺も震えてきた!」
「この緊張感がライヴの醍醐味だよな」と清純。
「ホントそうッスねぇ!だけど正直、逃げ出したくもなりますよ!」
「何にしても、もう後には引けない」
そこに着替えを終えた裕司が控え室の奥から出てきた。
「おっ?裕司、言うねぇ!」
皆が緊張感に震える中、ただ一人、裕司だけが不思議な程に落ち着いていた。
その時、ノックと同時に控え室の扉が開いた。
「そろそろ時間です!」
会場スタッフが顔を出す。
「よっしゃ!それじゃ行くかっ!」
「オゥ!!」
YASHIMAの3人、サポートの加奈子と助っ人の清純が右手を中央に出し円陣を組む。
その姿を傍らで見詰める麻理子。バンド・メンバーでは無い為その輪に加われない事にちょっぴり寂しさを感じる。
だが
「麻理ちゃん!」
裕司が手招きをする。
「えっ?」
裕司と賢治の間にスペースが空いている。
「だ、ダメよ!私、バンドのメンバーじゃ無いし……」
「何言ってんの!今回のライヴの発起人で総合プロデューサーじゃんか!」
「此処に居る6人全員でYASHIMAだよ!」
皆が頷く。
「ほら早く!!」
その言葉に例え様の無い嬉しさが込み上げてくる麻理子。お言葉に甘えて輪の中に飛び込み一番上に手を添える。
「それじゃ総合プロデューサーの山本麻理子様!最初のコールをお願いします!!」
「えぇっ!私が!?」
敏広の要請に声が裏返る。
こういう事は苦手なのだが、ここで拒否るのは野暮とゆう物。
「そ、それじゃ……コホン!」
やっぱり照れ臭い。
「………カモーンカモーン」
「カモーン!カモーン!」
「Come On!!Come ON!!」
「Woooooooooooooooo~Oh!!」
さあ出陣だ。
尚、誠に勝手ながら女トラの年内更新は今回迄とさせて頂きます
次回は年明け早々を予定しておりますので引き続き御付き合いヨロシクお願いします
またblog自体はツアーネタ、音楽ネタ等で年内も更新しますので今年もネタバレ全開で行きますんで重ねてヨロシクです
コメント
女トラの大ファンです(^^)
いつも女トラとってもとっても楽しみにしています(^o^)
次の展開はど~なるの!?
と待ちきれない思いですが、年明けの更新をまたわくわく((o(^∇^)o))しながら待ってますね~(^^)
来月からはいよいよツアーネタ♪も始まりますね~(*≧∀≦*)
そちらも、スッゴク楽しみです(^^)
ぺこちゃんさん♪^^毎度です
女トラをいつも楽しんで頂きありがとうございます
一応続きも6~7話程、書き上げておりますがチョコチョコ手直しが必要でして年内お休みさせて頂く事にしました
ツアー・ネタと来年からの展開共々ヨロシクお願いします
1年間お疲れ様でした。また来年もよろしくお願い致します!
yukio_egawaさん♪^^
ありがとうございます
続きの方は手直しを繰り返しつつ仕上げておりますので
こちらこそ来年もヨロシクお願いします