里香の息子、神園永悟は華奢な身体つきだが身長175cmと中学生にしては高身長であった為に普通にしていても目立つので、それだけで上級生から目を付けられてしまっていた。
性格は良く言えば温和。悪く言えば小心者で根暗では無いが何に対しても消極的な所は父親に似てしまった様だ。
成績は普通レベル。ただ足だけは抜群に速く陸上部に所属し、特に長距離が得意で1年の時のマラソン大会では2位の生徒を20秒以上放してブッちぎりの1位を獲得。しかもタイムレコードが全学年総合でも1位。
また秋の新人戦でも1年生でありながらレギュラーを獲得し地区大会で上級生選手を抑えて3位入賞。東京都大会でも好成績を収めていた。
お陰で同学年の生徒と同じ陸上部の先輩からは一目置かれる存在であったが下級生が目立つ事を面白くないと感じる生徒は何処にでも居る様で、ある上級生4人が何かと因縁を付けてくるのだ。
しかも、その4人組は校内でも、かなりのワルで永悟がこの連中に絡まれているのを殆どの生徒が知っているのだが自分に危害が降り掛かる事を恐れてか皆が永悟と関わるのを避けてる故に永悟には友達が居なかった。
そして、この日も永悟は、その上級生4人に校舎裏に連れてこられていた。
「おい。お前、いい気になってんじゃねえぞ」
「いえ・・・別になってません」
「口答えしてんじゃねえよ!」
「・・・すみません」
「すみませんじゃねえよコラァ!」
「どう、おとしまえ付ける気なんだよぉ?」
「どうって・・・」
理不尽な言い掛かりである。
「先生こっちです!」
一人の女子生徒が先生の手を引いて走ってきた。
「チッ!またあの女かよ」
「行こうぜ」
4人は小走りでその場から立ち去った。
この女子生徒は神園千晶。
永悟と同い年の従姉弟で里香の兄夫婦の娘で、この学校で永悟の唯一の味方である。
「何で抵抗しないのよ!?」
先生が職員室に引き返すと千晶が問い出した。
「いいだろ別に」
「よくないよ!だからいつもこんな事になるんじゃない」
「争い事は嫌いなんだ」
「またそんな事言って!いつも先生呼びに行く私の身にもなってよ!」
「頼んでないだろ!」
「何よ!永悟のバカッ!!」
この二人のやり取りも日常と化していた。
里香は、これ等の話を千晶や兄夫婦から伝え聞いていたのだが永悟に直接聞いても、この件に関しては永悟は自分からは何も話そうとはしなかった。
事態がちゃんと把握出来てない為の不安感。
母親の里香からすれば自身が虐めを受けてた事以上に辛い事であった。
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