ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆255

「ねぇ麻理ちゃん!お願いだから機嫌直してよぉ!」
「知らないっ!!」

プン!と膨れて足早に歩いていく麻理子。

「ねぇ麻理ちゃんてばぁ!」
「ふーーーーーーんだっ!!」

エラい御立腹な様子。

「ちょ、ちょっと麻理ちゃん、そっち入口じゃ無いよ!」

2階席入口階段と物販テントの間を通って武道館裏手の方へと麻理子は向かっていく。

走って追い掛ける裕司。

暗がりの中、肩を掴もうとした途端、麻理子が足を止め振り返った。

「ワァッ!」

慌てて立ち止まる。

ふくれっ面で裕司を睨む麻理子。

「浮気者!」
「ご、ごめん……」

あれ位で?と言いたい所だが今は飲み込む。

「これで二回目!」
「えぇっ!?」

絶句する裕司。これには流石に反論したくなる。

「あ、あれは仕方無いだろ!それに元はと言えば、あれは麻理ちゃんが、そうしろって言ったんじゃないか!」
「んんーーーーーーーーっ!!」
「あっ!いやっ!ゴメン!俺が悪かった!!」


眉間に皺を寄せた麻理子の形相に恐れおののき反射的に両手を合わせ頭を下げる裕司。

因みに一回目の相手は広瀬華音。

事の次第は、この年のヴァレンタイン・デー。

華音が「どうしても裕司さんにチョコをお渡ししたい」と麻理子の携帯に電話をしてきたのだった。
その初々しくも礼儀正しい華音の哀願に麻理子も快諾。

当日の夕方、華音は裕司宅まで手作りチョコを届けに来た。
その時「ちゃんと御返ししなきゃ駄目だよ!」と麻理子に言われ「じゃあ御返しは何がいい?」と裕司が聞くと何と華音は

「それじゃ一度だけ私とデートして下さい!」

この申し出に麻理子はちょっと、否、かなり戸惑ったが、お姉さんの余裕で、これを了承。

「い、い、いいんじゃない?良かったねぇ裕クン、モテモテ!」

ホワイト・デーに自由が丘のスウィーツフォレストでデートする事になり「良い思い出が出来ました」と華音も泣いて喜んでくれた。

所が、そっちに気を取られて肝心の麻理子への御返しをド忘れしてしまい、裕司は二日間、麻理子に口を聞いて貰えなくなってしまったのだった。

「ねぇ、お願いだから許してよぉ!」

腕組みをして背を向けた麻理子にひたすら頭を下げ続ける裕司。

「もう他の女の人に見惚れたりしないからさぁ!」

このままでは自分達が入場する前に開演時間を迎えてしまう。だが今それを言ったら火に油を注ぐ結果に成る事は必至。

「ねぇ、どうすれば許してくれる?」

焦る裕司。

「どうしよっかなぁ~っ」

何処か空々しさを感じる麻理子の口調。

兎に角、今は許しを得る事が最優先。

「分かった!もう許してくれるなら何でも言う事聞くからっ!」

前屈でもする様に身体を折り曲げる。

それを聞いて麻理子が踵を返す。

「ホントに?」
「えっ?」
「ホントに何でも言う事、聞いてくれる?」
「う、うん……」
「ムッフッフッフッフゥ~ッ」

キャラに無い不適な微笑を浮かべる麻理子。最近、麻理子の性格が変わってきた様に思えるのは自分だけだろうか?

裕司は心の中で大きなため息を吐く。

前回の時は初日にランド。ミラコスタに1泊して翌日は閉演までシーというディズニー三昧の接待をさせられた。

「それじゃあねぇ~」

科を作る麻理子。

「うん…」
「私ぃ~」
「うん…」
「裕クンのぉ~」

一呼吸置く麻理子。すると背伸びをして裕司の耳元に口を近づけた。

「………が欲しいっ!」

それを聞いた裕司の目が一瞬、点に成る。そして

「…………エェッ!?」

声が裏返り唖然として固まる裕司。しかも赤面している。

「何でも言う事聞くって言ったよね?」

裕司のリアクションに不満が有るのか憮然とする麻理子。
「う、うん……」

言葉に詰まる。暫しの沈黙。

裕司の頭の中で色んな想いが交錯する。
麻理子の要求は裕司の立場からすれば本来なら喜ぶべき事、男冥利に尽きる物であった。
しかし、余りにも唐突である為に返事に困ってしまう。
それに、こういう事は軽はずみな返答は許されない。
かといって拒否する事も出来ないし、また、その必要も無い。
今の裕司に必要な物、それは只一つ。覚悟だけであろう。

「うん……判った」

小さく頷く裕司。

「ただ…」

裕司が続ける。

「えっ?」

当惑している様な面持の裕司に不安気な表情の麻理子。

再びの沈黙。

「その為には……その………その前にやらなきゃいけない事が有ると思うんだ。何てゆうか……ケジメってゆうかさ……」

実は裕司は麻理子との関係に、きちんとケジメを着ける為の準備を敏広達、仲間の協力の元、着々と進めていたのであった。

その計画が実行される予定日は翌年の麻理子の誕生日。

「今は…何も言う事は出来ないんだけど……その………と、とにかく今は、もう少し時間を下さい!」

また前屈でもするかの様に深くお辞儀をする。

「だけど」

身体を起こし真っ直ぐな瞳で麻理子をじっと見詰める。

<BGMは♪アイ・ラヴ・ユー,OK 1990 Version>

「不肖、汐崎裕司、約束は絶対に守ります!!」

前年のYASHIMAのライヴの時の様に決意に満ちた漢らしいその表情。

それを見て麻理子の顔にも自然と笑みが浮かぶ。

「うん!」

誠意が通じた様でホッとすると同時に麻理子の笑顔に思わず見惚れてしまう裕司。
この笑顔を見る度に思うのだ。麻理子が笑ってくれるなら犯罪以外なら、どんな事でもしよう。自分の愛の全てを捧げようと。

「行こっ!始まっちゃうよ!」

機嫌を直してくれた麻理子が腕を組んでくる。

普段以上に仲の良い空気を醸し出しながら二人は武道館の階段を上がっていった。

つづく 次回、最終話

コメント

  1. ぺこちゃん より:

    AKIRAさん渾身の大作本
    女とらもいよいよ次回で最終回ですか涙
    毎回、YAZAWAファンの登場人物やリアルに描かれた場面に
    感情移入して、自分の事のように
    泣いたり、笑ったり、喜んだり、悲しみでいっぱいになったり…
    毎回の更新日が楽しみでたまりませんでしたうれしい顔
    最終章が
    ほのぼのとみんなが幸せになる予感の展開でうれしいデスわーい(嬉しい顔)ハートたち(複数ハート)
    永ちゃんの曲にもあるように、寂しくてたまりませんが、最終回もスッゴク楽しみにしていますねわーい(嬉しい顔)
    女とら読んでたら、早く永ちゃんに逢いたくなっちゃった黒ハート

  2. AKIRA より:

    ぺこちゃんさん♪^^毎度です
    YAZAWAファンの方にリアルに感じて頂けたならマジ幸いです
    次回いよいよ最後なのでタオルの準備をしておいて下さいヨロシク(笑)

  3. 大阪の永ちゃん狂い♪ より:

    ほんまに最後なん
    ぺこちゃんさんの言うとおり毎回の更新が楽しみやったのに・・・
    女トラの最終回が楽しみのような、終わってほしくないような。
    終わってほしくないっちゅうのが大きいけど、ほんまに終わんねんな~

  4. AKIRA より:

    大阪の永ちゃん狂い♪さん♪^^毎度です
    いつも女トラを楽しんで下さりありがとうございます
    実は執筆開始前からラストは既に頭の中で出来上がってまして、この様に〆ると最初から決めておりました
    読まれましたら、きっと納得して頂けると思うので、どうか最後まで御付合い願いますヨロシク

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