「そればっかりは周りには、どうする事も出来ないわね」
「ほうでふな(そうですな)。ふひでひってやめはへられるようなはんたんなほとではほまへんはら(口で言って止めさせられる様な簡単な事ではおまへんから)」
鼻血を止める為にティッシュが詰まっているので妙なイントネーションになる洋助。
「そうですよね………」
虐めは駄目と口で言うのは簡単である。だがそれで虐めは無くならない。
言って聞かせて止める様な奴は最初から虐めなどしないからだ。
ボディ・ガードでも雇えば解決するだろうが、そんな方法は非現実的である。
暗い沈黙が流れる中
「来週の土曜日、時間作れる?」と眞由美。
「え?」
「その日に息子さんを連れてらっしゃい」
「は、はぁ…」
「あなたの悩みを直接解決する事は出来ないけど色々と試してみましょう」
よく判らないが何か考えがある様だ。
「大丈夫。私に任せて!」
「は、はい。ヨロシクお願いします」
「所で時間は大丈夫?」
「……あっ!」
時計は9時半を指していた。
「すみません!もうこんな時間!」
「私はいいけど平日に中学生のお母さんが遅くまでお酒飲んでたら不味いわよね」
「そうですよね!母親失格だわ!」
急いで帰り支度をする里香。
「今日は本当にありがとうございました。こんな私ですがヨロシクお願いします」
深くお辞儀をする。
「こちらこそヨロシクね。土曜日の件、息子さんに話しておいてね」
「はい勿論です!洋助さんもありがとうございます」
「とんでもありまへん。お気をつけて」
鼻血が止まったのでティッシュを抜いて普通に喋る。
「はい。それじゃ失礼します」
扉が閉まる。
「ありがとね。洋助」
「何ですの急に?」
眞由美はブランデーグラスを出してカミュ・ナポレオンを注ぎ洋助の前に置いた。

「彼女が本音を話せたのはアンタが場を和ませてくれたからよ」
「そんなん改まって言われたら照れますがな」
「いいじゃない。ありがとう」
もう一つのグラスを置かれたままのグラスに合わせ眞由美はカミュを一口含んだ。
「ほならユー・アー・ウェルカムとゆう事で」
洋助はグラスを持ち、先ず香りを楽しんでからゆっくりと、そして一息もつかずに飲み干した。
焼ける様な喉越しはバーボンと同じだがフルーティな香りが鼻から抜ける。
「所で」
洋助が口を開く。
「何か良い考えでも有るんですの?」
「まぁね。仲間の力を借りるわ」
「なるほど」
「アンタも来週来る?」
「流石にその日は無理ですわ。でも再来月は伺います」
「あら、憶えていてくれたの?」
「毎年の事ですやん」
「うふふ、そうね」
空になった洋助のグラスに再びナポレオンを注ぐ。
その時、眞由美の携帯が鳴った。
メールの着信で里香からであった。
今日のお礼の内容で思えばこれが里香から来た初めてのメールであった。
コメント