入試当日、何と麻理子と同じ教室で試験を受ける事になった。
席は受験番号順で麻理子は廊下側2列目の前から2番目の席。遥子は4列目の一番後ろ。
何だか初恋の人が傍に居るみたいに舞い上がる遥子。
「槙村さんどうしたの?」と右真横の同級生。
「えっ?な、何が?」
「何だか凄く嬉しそう」
「そ、そんな風にみえる?」
直後に試験官が教室に入って来て注意事項を説明し始めた。
そんな中、遥子は嫌らしいとは思ったが自分の席から逆算して麻理子の受験番号をチェックしてしまった。
第1科目のテスト用紙が配られる。
「それでは始め!」
試験官の号令と同時に一斉に問題に取り組む受験生達。
遥子も慌ててテストを始める。
《いけないいけない!今は集中しなきゃっ!》
自分が落ちてしまってはお話にならない。
遥子は答案を書き終えた後も名前と受験番号の書き忘れは無いか、ケアレスミスは無いかと全ての科目を時間一杯まで何度も確認した。
その甲斐有ってか遥子は見事、合格。
掲示板で自分の名前と受験番号を見て喜びよりホッと胸を撫で下ろすも、それ以上に気になるのは、やはり麻理子の合否であった。
そんな中、その麻理子がすぐ横に居た。
話し掛ける絶好の機会。だが、やはり躊躇してしまう。
しかもこの時、麻理子の表情が何故だか浮かない様子なのであった。
《まさか不合格?》
嫌な予感が遥子を襲い恐る恐る掲示板を見て麻理子の受験番号を探す。
だが目当ての番号は有った。数字の横にはしっかりと麻理子の名も表記してある。
《良かった!彼女も合格出来たんだ!!》
自分の事以上に嬉しくなる遥子。このまま麻理子に抱き付いて一緒に喜びを分かち合いたい衝動に駆られた。
だが同時に遥子は不思議に思った。ならば何故、麻理子は少しも嬉しそうじゃないのだろう?
掲示板をジッと見詰めたままの麻理子。何か決意に満ちた表情で小さく頷くと、その場から走り去って行った。
その背中をずっと目で追う。
麻理子の叔母、楓がこの日、息を引き取った事を遥子が知るのは、もう少し後になってからの事であった。
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