ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆060

千晶は祈る様に両手を握り締めながらブルブルと震えていた。
「マネージャーが緊張してどうする!」と陸上部の顧問。
「だって・・・」
2学期に入って直ぐに千晶は陸上部に自ら進んで入部しマネージャーを請け負った。


9月中旬、この日は新人戦。
永悟達の学年が主力になってから初の公式戦である。
そして今、千晶はマラソンに出ている永悟が競技場に帰ってくるのを今か今かと待ち侘びていた。


「第一走者、間も無く入場です!」
大会係員のアナウンスが聞こえると競技場内は、どよめいた。
「随分早いな!」
トラック内で待機してる他校の顧問や部員達が慌しくなる。
千晶は握り締めた手を離し競技場の入り口に目を向けた。
それと同時に第一走者が疾風の如く場内に現れた。


「永悟ーっ!」
思わず叫ぶ千晶。
永悟は笑っていた。
走るのが楽しくて仕方がないという風に。
「タオルの準備だ!」
「はい!」
顧問の指示に従い千晶は袋から大きなタオルを出して勢い良く広げた。
そのタオルの柄を見て顧問は一瞬ギョッと目を丸くしたが敢えて何も言わなかった。
トラックのカーブを減速する事無く曲がっていく永悟。
反対側の中間地点のラインを超えればゴールだ。
係員がテープの準備をし始める。
カーブを曲がり終えた所で永悟は更に加速をし始め、まるで短距離走者の様な大きなストロークを見せて一気にゴールを走り抜けた。


タオルを掛けようと永悟を追い駆ける千晶。
だが中々追い着けない。
減速して永悟の足取りがほぼ止まる頃にやっと追い着き、その高い背中に飛び乗る様に千晶はタオルを掛けた。


「おめでとう永悟!一位だよ!!」
「あぁ!ありがとう!!」


約2ヶ月前、二人で一緒に観に行った時に買ったロック・オデッセイのYAZAWAビーチ・タオル。
その柔らかい肌触りが心地良い。


「ありがとな千晶」
永悟は息を切らせながらその声で改めて千晶にお礼を述べた。
「えっ?」
一瞬戸惑う千晶。
「千晶のお陰で今日も思い切り走る事が出来た!」
「そんな…」
いつもなら憎まれ口を叩きたくなるのだが不思議とそんな気も起きない。
2学期に入って3年部員が引退した後、部員の満場一致で永悟が部長に就任。
そして千晶は部長となった永悟の陰日向となりマネージャー職をこなし、その働きは部員の誰もが感心する程に一生懸命な物であった。
「今まで色々とありがとう!これからもヨロシクなっ!!」
「う、うん!!」
清々しい永悟の笑顔に満面の笑みで返す千晶。
そして永悟は尚も千晶を見つめ続ける。
千晶はその眼差しに頬を赤らめ顔を背けてしまった。
「行くぞ!」
「えっ!?」
永悟は千晶の手を取って走り出した。
肩に掛かってたタオルが、はだける。
「そっち持って!」
「うん!」
二人はオリンピック選手が母国の旗を纏ってウイニング・ランをする様にYAZAWAタオルを靡かせフィールドを走り始めた。



「い~い話ねぇ~~~!!」


里香から話を聞いた眞由美はグラス片手に、しみじみと遠くを見詰めた。


つづく

コメント

  1. ぺこちゃん より:

    ロック オデッセイの時のヤザワビーチタオルと言うと、青空の様なタオルでしょうか?(^-^)
    ウイニングランにピッタリですね(^^)←違ったりして(^o^;
    059とは全く違う展開で、まるで映画のワンシーンの様ですね(^-^)
    次のメトラが待ち遠しいです(^^)v

  2. AKIRA より:

    ぺこちゃん♪^^
    >青空の様な~
    その通りです
    いつもありがとうございます
    第弐章はもう少し続くので今後もヨロシクです

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