「何で大阪より遥々来たのに、いいちこ飲まされにゃあ、ならんですの」
「あら要らないの」
グラスを下げようとする眞由美。
「あわわわわっ!判りましたわかりました!」
洋助は慌ててグラスを両手で握りグビッと一口飲んだ。
「ホンマ姐さんには敵いまへんわ」
「判ればいいのよ」
どうやら、この前のリヴェンジの様だ。
「いいなぁ」
「え?」
里香の呟きに眞由美と洋助がハモる。
「お二人とも何だか凄く仲良しって感じで」
「ちょっと止めてよ」
「いやぁ~やっぱり分かりますぅ?」
「何が分かりますよ!」
「その、気心知れた者同士って感じで羨ましいです」
「んん~、まぁそれなりに長い付き合いだからねぇ」
「例のあの日以来ですからなぁ」
「それがまた羨ましいんです。私もあの時に眞由美さん達とお友達になりたかった・・・」
「今からでも遅くは無いでしょ」
「そうですやん。今から始めればよろしいですがな」
里香の目尻からまた涙が滲んできた。
「すみません・・・私・・・泣いてばかりで・・・」
「いいのよ」
「泣きたい時に泣くのは女性の特権ですやん」
「アンタたまには良い事言うわね」
「たまには余計ですがな」
涙を拭いながら里香がクスクス笑う。
「私・・・本当にここに来てよかった・・・眞由美さんには凄く親切にして頂いて・・・洋助さんとも会えたし・・・」
「まだまだこれからよ」
「え?」
「私達だけじゃなく、これからあなたにはもっと多くの矢沢仲間が出来るから」
「眞由美さん・・・」
「だから、これからは他の客が来ても帰っちゃ駄目よ」
「あ・・・・はい」
「自分の方から心を開かなければ新しい仲間は出来ないわ」
「正に、この店の名前の通りですやん」
「うふふ。そうね」
空になった洋助のグラスにナポレオン(下町の)を注ぎ足す眞由美。
「そうですよね。でも・・・何か緊張しちゃって・・・」
「気持ちは判るわ。だから私がちゃんと紹介してあげるから」
「ありがとうございます」
「色んな人達とコミュニケーションを取らなきゃね。その為にこうゆう店があるんだから」
「ヨロシクお願いします。はぁ~、だけど」
始めの頃と違い明るい表情の里香。
「何だかスッキリしました。胸に痞えてた物が吐き出せたってゆうか」
「少しは楽になった?」
「はいとても!本当にありがとうございます!」
「良かったわ。でも」
眞由美は里香にミネラルウォーターの入ったグラスを出しながら言葉を続けた。
「まだ何かあるでしょ?」
「え?」
「隠す事無いじゃない。私達、仲間でしょ?」
里香は俯いて黙ってしまった。
暫し沈黙が流れる。
「・・・どうして判っちゃうんですか?」
恥らう様な、そして観念したかの様な表情で里香は聞いた。
「キャリアよ」
「年の功とも言い・・・フゴッ!!」
この時、洋助の顔面に眞由美の強烈な右ストレートが炸裂していた。
「気にしないで話して」と眞由美。
「は、はい…」
気にするなとゆう方が無理であるが里香は水を一口飲んで姿勢を正した。
「実は……」
最初の時より表情が暗くなる。
「息子が今、昔の私と同じような目に遭ってるみたいなんです」
コメント