ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆067

「ちょっと明日じゃなかったの!?」
届いたメールを読んで真純は声を上げた。
「どうしたの?」
「旦那が今、羽田に着いたって!」
大急ぎで帰り支度をする真純。
「それじゃ帰るわ!里香ちゃん、またね!」
「あ、はい。お気をつけて」
慌しく帰って行く。


「出張って言えば」
里香が口を開く。
「最近、洋助さんは入らしてますか?」
「あれから月イチ位で来てるわね」
空になった3本目のハイネケンの瓶を片付ける眞由美。
「それがさぁ~」
「はい」
「アイツあれから必ず裏口から入ってくるのよ!表が開いてるのに」
「本当ですか?」と笑う里香。
「先月なんて他の客からウチのスタッフだと最後まで勘違いされてたわ。しかもあいつ御丁寧に接客までしてたからね」
「洋助さんらしいですね」
その後、二人の会話は例の騒動の時の洋助の見事なピッチング、抜群のコントロールに及んだ。
「あれを見て高校球児って本当だったんだと思いました」
「実は私もよ」


―――その騒動の時―――


眞由美は足元に転がってきたボールを拾い上げた。
「また美味しい場面での御登場ね」
「スターは最後に登場と相場が決まっとりますからな」
「お笑いスターだけどね。でもありがとう。お陰で助かったわ」
ボールを高く放り投げる眞由美。
「助かったのは、むしろその馬鹿じゃない?」と愛美。
「姐さんを人殺しにせんで済みましたな」
大きな放物線を描いて洋助の胸元辺りに落ちてくるボール。
すると洋助は、そのボールをキャッチすると同時に桑田真澄の牽制球の如く華麗且つ素早いフォームで再びボールを投げた。
ドスッ!!
「ぎゃぁーーーーーーーーーーーっ!!」
鈍い音と共に正二の悲鳴が多摩川に響く。
ドサクサに紛れて匍匐前進で、その場から逃れようとしてた正二の臀部にボールが命中。
痔持ちであった為、強烈な痛みに、のた打ち回る正二の姿に笑いが起こった。



「そういえばあの時、愛美さんの乗ってたバイク、あれゼッツーって言うんですよね?」
「あら、よく知ってるわね」
「前に話した矢沢ファンの彼が好きなバイクだったんです。凄い渋いなぁ~と思って」
「私があげたのよ。元々は私の一番上の兄が乗ってたんだけどね」
「そうなんですか?」
「大事に乗ってくれてるのよね。あのバイクは・・・」
眞由美が何かを言い掛けた時に拳斗が来店した。
「拳斗さん!お帰りなさい!!」
「おぉ!里香ちゃん、ただいま」
「随分、長かったのね」と眞由美。ちょっと不満気な表情である。
「たまには親孝行しないとな」
眞由美のバースデー・パーティーの1週間後、拳斗は家庭の事情で両親が住むシアトルに飛び、約3ヶ月間、向こうで過した。
「で、その後、特に問題は無いかい?」
「はい!あれから平和な日々だそうです!」
「二人の仲も順調だそうよ」
「そりゃ良かった!」と笑う拳斗。
例の騒動の後、Aは1学期終了を待たずに、Dは2学期が始まる前にそれぞれ転校。
BとCは存在感が殆ど無くなって永悟と千晶の学校での不安材料はもう無きに等しかった。
「ただ変な噂が学校で広まっちゃったと悩んでました」
「噂?」
「永悟と千晶ちゃんに因縁付けると日本全国から矢沢ファンが駆けつけて酷い目に遭うとか」
笑う拳斗と眞由美。
里香も楽しそうに話してる所を見ると深刻な悩みでは無さそうである。
あの後、拳斗が渡米した事もあって土曜日の集いは自然と消滅してしまい以来、永悟はOpen Your Heartには来ていない。
千晶もずっと土曜日に塾をサボッていたのが親にバレてしまい週末は親の監視下に置かれ7月のロック・オデッセイの時以来、眞由美は千晶達と逢っていなかった。
「また連れてらっしゃいよ」と眞由美。
「はい!二人も眞由美さんに逢いたがってました。特に永悟は拳斗さんに話したい事がいっぱいある様で」
「楽しみにしてるよ」
「はい!それじゃ私はそろそろ」
と言って帰り支度を始める里香。
「まだいいじゃないか」と拳斗。
「いえいえ!お邪魔でしょうから」と悪戯っぽく笑う里香。
眞由美と拳斗はお互いの顔を見合わせ照れ臭そうに笑った。
「何だよ。オデッセイとクラⅡの話、聞きたかったのに」
「それは眞由美さんからどーぞ」更に顔が悪戯っぽくなる里香。
「里香ちゃん凄い顔してるわよ」と苦笑いの眞由美。
「うふふふ。それじゃ、お邪魔虫は撤収しまーす」
「もう~」
ドアに向う里香。
だが突然、立ち止まり二人の方に振り返った。

つづく

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