裕司が3年生の夏休み期間中に溝口の地元スーパーマーケットの店長を勤めていた父が過労による心臓発作で急死。
一家の大黒柱を失った事により裕司は大学進学を断念。就職活動を機にバンドを去る事を決意。
ただ裕司の母は充分な貯蓄があるので学費と生活費位なら賄えると進学を薦めてくれたのだが
「母親を一人、家に置いて学生なんてやってられないってアイツ断ったんだよ」と敏広。
「一人息子だし、御袋さんに余計な負担を掛けたく無かったんだろうな」と賢治も付け加える。
現在はその母も他界し両親が残してくれた家で一人暮らしだが父の死後に体調を崩し、その4年後に亡くなるまで母の面倒を働きながら一生懸命見ていた裕司に敏広、賢治、それに御近所の方々も心底関心していた。
「優しいんだ…」麻理子が呟く様に言う。
「優しさと真面目さで言ったら裕司以上の奴を俺は見た事が無い」
敏広の言葉に賢治も横で頷いている。
「それで俺達も裕司の居ないYASHIMAなど続ける意味が無いと思って解散を決めたんだけど『YASHIMAは俺の誇りなんだ。出来れば、お前達二人で続けて欲しい』って言うから大学で活動を再開したんだ」
「ヴォーカルだけは空けてね。アイツがいつ戻ってきてもいい様に」
麻理子は、ちょっと感動していた。
遥子も普段とは違う一面を知って3人を見直していた。
「YAZAWA魂が3人の友情を育んだのね」と遥子。
「そうそう!その通り!」
皆が笑う。その時
「お客様、そろそろラストオーダーの時間なんですが」
時計は11時を指していた。
「あ、もう結構です。お会計お願いします」
「畏まりました。ありがとうございます」
ホールスタッフがその場を去ると敏広と賢治がテーブルの上を片付け始めた。
残ってしまった料理を無理して頬張る敏広に空いた皿を丁寧に積み上げてジョッキを一纏めにする賢治。
更にテーブルの上をオシボリで丁寧に拭き取る。
それを見た遥子が
「相変わらずね」と笑う。
「礼儀でしょ」と二人。
「君達のそうゆう所、好きよ」
「え、何々?もっかい言って」
食べ物を口に含んだまま敏広が耳を遥子の方に向ける。
「いいから口より手を動かせ!」と賢治が敏広の頭をポカッと叩く。
遥子と麻理子も笑いながら片付けを手伝う。
会計を済ませ外に出ると少し肌寒い。
「しかし麻理子ちゃん今日は沢山、飲んだねぇ~!」
「ホントは酒豪なんじゃない?」
「えぇ~?そんな事・・・」
「私も麻理子があんなに飲めるとは思わなかったわ」
中ジョッキ7杯と4人の中で一番多く飲んだ麻理子。だが顔がほんのりと赤らんでる以外は普段と変わらない。
「それじゃ私達は帰るわ。君達は?」
「週末さぁ~Rockin’ your heart~だからもう1杯、飲んでいくよ」と敏広。
「楽しんできてね」と笑う遥子。麻理子も横で笑ってる。
「所で電車は大丈夫?」と賢治。
「今日はタクシーで帰るわ」
「調布まで?遠くない?」
「ううん。四谷まで」
遥子は普段は四谷の賃貸マンションに一人で住んでいる。
「麻理子ちゃんは?」
「麻理子は今日は私の部屋にお泊り」
「いいねぇ~!じゃあ2次会は遥子ちゃんの部屋で!!」
「いい訳ねぇだろ!」
賢治が敏広の襟首を掴む。
会話は尽きないが遥子と麻理子の二人は敏広が拾ってくれたタクシーに乗り込み有楽町を後にした。
コメント
流れるような筆運び、わくわくスリリングな展開、掲載発表が出ると飛んで来て楽しませて頂いてます。そんな中でも私の今日の一番は「もっかい言って」!!「もっかい」・・・この崩し方にホレボレです
Baybreezeさん♪^^
嬉しいお言葉本当にありがとうございます
>もっかい~
その辺に敏広とゆうキャラの特徴を表してみました
今後もヨロシクお願いします