その年のツアーはチケットを確保していたにも関わらず栄太郎は行く予定だった全てのコンサートを不参加。
一度はファンを辞めようと思った事も有った。
だが、それでは逆に宏に申し訳無いと思い直し翌年から今迄以上にYAZAWA最優先の生活を始める。
宏の代わりに、宏の分まで、自分が永ちゃんに逢いに行こうと心に決めたのだった。
「勿論、自分が楽しいからっていうのも有るんですけどねぇ」と苦笑いの栄太郎。
店内はシンミリとした雰囲気となり皆が栄太郎の話に聞き入ってしまっていた。
「そんな話を聞いちゃったら………」
眞由美がカウンターの奥からグラスとバーボンを取り出した。
カウンター中央にグラスを置きバーボンを注ぐ。
「宏君だっけ?栄太郎の最高なYAZAWA仲間に……」
自分のグラスを掲げる眞由美。
他の者達もそれに続く。
「お前もそれなりに悲しみを味わっていたんだな」
「普段はそんな雰囲気、微塵も出してないのにね」
普段の栄太郎は呑気な若者という感じでYAZAWAな雰囲気は勿論、その様な悲しい経験をしてる風にはとても思えなかった。
暫し沈黙が流れる。
「あぁ、……それじゃ自分はそろそろ」
栄太郎が立ち上がる。
「まだ9時前よ」
「いえチョット1杯のつもりだったんで」
「あ、それじゃ私も」
「ワシも明日、仕事が有るんで」
莉奈、剛健も席を立つ。
会計は剛健が莉奈と栄太郎の分も支払ってくれた。
「すみませんゴチになります!」
「その代わり、貰った金で嫁さんにケーキでもお土産に買ってってやれ!」
「そうよ!それから、ちゃんと食べて、しっかり栄養取りなさい!」
「帰りも電車を使う事!鶴見は近いけど浮かせる程の金額じゃないからね!」
「耳が痛い」と苦笑する栄太郎。この日も行きは鶴見の自宅マンションからOYHまで徒歩で来たのだった。
一通りの挨拶を済ませ帰ってゆく剛健達。
「さて、こっちはまだまだ盛り上がるわよぉ!」
眞由美の言葉に笑いと歓声が起こる。
「あっ、忘れてた!ケーキと言えば此処にも有ったじゃない!」
皆が話に夢中でバースデー・ケーキの事を澄子自身も忘れていた。
愛美がケーキをカウンターに移動させて手際良くカットを始める。
その間に眞由美が別のドリンク類の準備をしていると澄子が
「ねぇ、裕司さん」
「あぁ、はい」
「コンサートのチケットってどうやって取ればいいのかしら?」
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